スパンコール・ラッシュの前触れ
食堂で轟は箸を止めて、ぽつりと零した。
その言葉を受けて、向かいに座る緑谷も口入れようとしていた箸を止めた。
飯田はぶれることなく口内のカレーライスを咀嚼している。
「なんかキラキラしたもんが見える」
「キラキラ?」
緑谷は不思議そうに語尾を上げた。
飯田は飲み込んで一息ついて、眼鏡を1度直して轟を見た。
「それは大変だ。リカバリーガールに診てもらったらどうだ」
「診てもらったが異常なしだ。それにいつも見えてるわけじゃねえんだ」
「ほう。じゃあどんな時に見えているんだ?」
轟は視線を一度トレーの方へと落とした。
そして1つ間を置き、再び緑谷と飯田を捉える。
「苗字といる時」
緑谷はその言葉を聞いて固まった。思考が一度止まり、再び考え始めたようだ。
飯田は不思議そうに頭を傾げている。
「おかしいな。苗字くんはそんな個性はないはずだが」
飯田の発言に緑谷は驚き、困ったような表情を浮かべた。
轟は黙って飯田の発言に首を縦に振る。
その反応に、緑谷は思わず苦笑した。
「何なんだろうな」
轟は再び昼食を摂るために箸を動かした。
不思議な事もあるのだな、と飯田が相槌を打っている。
恐らく緑谷だけが轟の現象の答えに気づいていたが、何も言わないでおいた。
緑谷自身も、この手の話に関しては苦手意識が強かった。
「轟くん一緒の班だね。よろしくねー」
昼休みが終わり、ヒーロー基礎学の時間。
轟の目にはまたキラキラした物が見えていた。
瞬きを数回落としてもそのキラキラはなぜか消える事はない。
轟は苗字の声に頷き、目をこすった。
苗字名前。
飛び切りすごい個性を有しているわけでもなく、容姿も人並み。
だがとても優しい心の持ち主で、クラスメイトから熱い信頼を得ていた。
傍からしたら取っつきにくい爆豪にも分け隔てなく接する人当たりの良さから、一部の男子からは天使だとまで評されていた。
爆豪からしたら失礼な話ではあるが。
「苗字。お前って個性2つあったりするか?」
「え。急に何言いだすの、轟くん」
くすくすと笑い、苗字はぱっと明るい笑顔を轟に向ける。
「物を動かす、念力が私の個性。それ1つだけだよー」
轟は再び瞬きをした。
まるで苗字を彩るかのように、キラキラとしたものが再び現れたからだ。
「そうだよな」
自分に言い聞かせるようにそう零し、轟は視線を外した。
今日のヒーロー基礎学は救助訓練。
轟と苗字は崖の下に落ちたケガ人をロープで引き上げる役になった。
同じ班の尾白と青山が下に降り、ケガ人を救助する役だ。
「青山くんが準備できたら合図してくれるって言ってたね」
まだかなあ、そう言いながら苗字は髪を耳にかけた。
その仕草に轟は目を見開く。
理由は分からない。
けれどなぜか、苗字が言う事、なす事すべてが異様に輝かしく見える気がした。
今の何気ない行動を他の女子がしていたとしても何も思わないのに。
「あ!轟くん!」
苗字は轟の手を引いた。
華奢な指が轟の腕を掴んでいる。
その光景を認知した瞬間、苗字の背景が一面の輝かしいキラキラで覆われた。
あまりの眩しさに思わず目を細める。
「青山くんの合図!ロープを引こう!」
苗字の言葉に轟は正気に戻った。
そして目の前のロープをゆっくりと引き上げる。
先ほど現れた煌めきは空に向かって徐々に消えていった。
青山の個性か。
轟は先ほどのキラキラを、そう理解した。
思い返せば、苗字を見てキラキラが映る時は青山が近くにいた気がする。
轟はそう自分に言い聞かせて納得させる。
「轟くん、もう少しだよ!」
轟と苗字の手が重なった。
その瞬間、またしてもキラキラは強まっていく。
轟は知らない。
これからもっと、苗字を目にするとまばゆくなると感じることを。
そしてそれが恋だということも。
(轟くん、あれで無自覚ってすごいなあ。)
2人の光景を、緑谷がなんとも言えない表情で見つめていた。