「へえ。それは災難だったね」
「災難って言うか……なんというか」

練習の合間。
七絵と一緒にベンチに腰掛けて水分補給をしていた。
そして合間に、この間の爆豪君との出来事を話していた。

「私なんか悪いことしたかな」
「どうだろーね。まあ単純にムカつくんじゃない?」
「ムカつく?」
「私が爆豪君だったら思うわ。見下してんのかって」

はっきりとした七絵の言葉が、ダイレクトに響いた。
親友が言うからこそ、その言葉にはとてつもない重みを感じる。

「あんたと爆豪君は学年1位をとったわけでしょ」
「まあそうだけど……」
「でもそんなあんたは2位の轟君を自分よりも強いって言った。じゃあ俺はどうなんだよって思わない?」

確かにそうだ。そんなこと、考えてもみなかった。
ただ彼に憧れてる。そう言いたかっただけなのに。

「彩海はそんなつもりないって私はわかるよ。でも、そう捉えられてもおかしくないよ。あんたのその謙遜は」

七絵の言う通りだと思った。
私は知らないうちに爆豪君を傷つけてしまったんだ。

「……私、爆豪君と少し話をしてみる」

バシン。
七絵が背中を強く叩いた。
それに反応し、私の背中は一気にまっすぐにのびる。

「よし!じゃあ練習再開しよっ!」
「七絵、背中痛い。ひりひりする」
「この程度で弱音吐いてたら仮免取れないよ」
「何言ってんの。絶対取るから!」

七絵が友達で良かったな。
言いにくい事もはっきりと言ってくれる。
そんな優しい人、なかなか出会えるものじゃないと思う。
親友がここまでしてくれたんだ。
ちょっと怖いけど、勇気を出してみよう。





「爆豪君、いる?」

夕方。1-Aの寮に出向いて爆豪君を呼び出した。
突然来た私に、出迎えてくれた切島君は驚き目を丸くしている。

「轟じゃなくて、爆豪っすか?」
「うん。ちょっと爆豪君に用があるの。この間のベンチで待ってるって伝えてもらっていいですか?」
「あ……はい」

出迎えてくれたのが切島君でよかった。
神野事件で少し面識もあるし、何よりこのクラスでは一番爆豪君と仲が良い。
切島君からの伝言なら爆豪君は素直に聞いてくれるだろう。

「なんだよ」

ものの数分。この間のベンチで待っていたら、爆豪君が姿を現した。
私は意を決して、爆豪君に向き合うようにして立った。

「私、爆豪君にも負けないから!」
「……は?」

怪訝そうな表情を浮かべる爆豪君。
そりゃそうだ。会って早々、宣戦布告しているようなものだ。
訝しそうに爆豪君は私を睨む。

「私、2年生になってから色々ありすぎて自信が持てなくて……最近ずっと弱腰で……」

爆豪君のまっすぐな目が怖い。
けど今ここで逃げちゃだめだと思った。
だって、爆豪君は今、真剣に私の言葉に耳を傾けてくれているんだから。

「だから焦ちゃんだけじゃなくて、色んな人がすごく見えてた。それは爆豪君も同じ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないよ!だって、爆豪君は神野で私を助けてくれたじゃない!」

今でも鮮明に覚えている。
オールマイトが到着して、吹き飛ばされた私を受け止めてくれたのは爆豪君だ。
そして父と爆豪君が私を戦線から離脱させることで、結果的に助けてくれた。

「私だって強くなるから!また神野みたいな事が起きても、爆豪君を助けられるくらいになるから!」

これで伝わっただろうか。
決して君を下に見たりなんてしてないって。
ただ純粋に強くなりたい、それだけなんだって。

「でも、お前の憧れは轟なんだろ」
「うん……。それはずっと……これからも変わらない」

爆豪君は私に近寄った。
目を見ると、自然と首が傾くほどの距離。
不思議といつも威圧感のある目からは、刺々しさは感じられなかった。

「肝試しの時、なんで髪おろした」
「えっと……焦ちゃんに言われて……」

自分で言ってて気づいた。
私、本当焦ちゃんの事ばっかりだ。

「イラつくんだよ」
「え?」
「轟ばっかり追っかけて、そんなに楽しいか」

似たような事、春にも言われたな。
今思えば、あの時から爆豪君は私と彼に対して、いい思いをしてなかったんだろうな。

「奏出」

また同じような事言われちゃうのかな。
本当のこと過ぎて、何も言い返せないけれど。

「好きだ」
「……え?」

予想外の言葉に思わず間抜けな声を上げる。
爆豪君が言った。
確かに。好きだって、そう言った。

「わ、たしを……?」
「てめー以外に誰がいんだよ」

突然の事に驚きを隠せない。
最近になって少し話せるようになったとはいえ、ずっと嫌われていると思っていた人物だ。
そんな人に好きと言われた。

「早く振れ。どーせお前は轟しか見てねえんだろ」

そうとわかっていて、どうして私に言ったの?
わからない。やっぱり爆豪君って、全然わからない。

「ごめんなさい……」

なんだか爆豪君を見ていられなくて、足元に目線を移した。
爆豪君の黒いスニーカーが一歩、私に近づいた。

「そんなに轟が好きか」

爆豪君の問いに、首を縦に振って答えた。

「ちゃんと口で言えや」

その声に、ゆっくりと顔を上げる。
爆豪君の瞳を再び見ると、不思議と言葉が下りてきた。

「……好き」

爆豪君は何も言わなかった。
ただ黙って私を見つめて、数秒置いてから寮の方へと体の向きを変えて歩き始める。

「爆豪君、ありがとう。仮免試験……頑張ろうね!」

私の声に、爆豪君は一瞬止まった。
そしてこちらに振り向かず、そのまま答える。

「当たり前だろーが」

そう言い残し、再び寮へと向かって歩いていく。

「……ありがとう」

こんな私を好きになってくれて。
こんな私に思いを告げる勇気を出してくれて。

今度は答えることなく、爆豪君はただ真っ直ぐに前を見ながら突き進んでいった。

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