二次試験の内容は災害救助。
突然鳴り響いたアナウンスを合図に、私たちは先ほどの演習場に散らばった。
私は得意分野の水辺ゾーンに移動した。
個性で人魚に姿を変え、水中での負傷者を探す。
すると足場に足を挟め、苦しそうにもがく男性の姿が目に入った。
口からは空気の泡が丸く形を作り、上へと昇っている。
「待ってて!今どけます!」
岩の間から見えた足先の皮膚は変色していない。
循環障害がない事を確認し、私は水流を操作して岩を外した。
過度に刺激を与えないよう、慎重に丁寧に陸へと引き上げる。
男の人は大量の水を吐き出し、大きく咳き込み始めた。
「大丈夫ですか!?ここ、どこだか分かりますか?」
「……どこ…………ガクッ」
ガクッて、いくら演技とは言え口に出さなくても……。
今回の採点者である要救助者のプロ、HCUの大げさな演技に苦笑しながらも、近くにいた人に声をかけた。
「JCS 二桁!左足挫傷あり!優先的にお願いします!」
「了解!こっち連れてきて!」
処置役をやっている人のもとへ、水流に乗せてHCUの男性を運んだ。
ゆっくりと救護シートの上に男性を降ろす。
唇が青紫色に変色し始めている。体温が下がり、血流が巡っていない兆候だ。
「温めて体温をあげないと。誰か……」
ばっちりと。
顔を上げた瞬間、1人の人物と視線がぶつかった。
気まずい空気が一瞬にして流れる。
「……しょ……轟君!火を!」
今は私情を挟んでる場合じゃない。
救助者を助ける。それが第一優先だ。
「はやく!!」
一瞬躊躇したが、彼は頷き男性の近くに火を灯した。
男性が浮かべていた、苦痛の表情が少し和らいでいく。
足の傷は処置役の人が止血を行っている。
この人はもう任せて大丈夫そうだ。
「水中にまだ人がいないか探してきます。ここ、お願いしま……」
突如響いた爆発音に思わず動きを止める。
地響きが鳴り響き、大きな煙が立ち上っていた。
『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください』
「あれって……ギャングオルカ!?」
紛れもない、神野事件で私を助けてくれたうちのヒーローの1人。
父とも面識のあるヒーロー。
そのギャングオルカが、多くの敵役サイドキックを引き連れて君臨している。
「奏出さん、敵の方へ行って!あなたの火力で止めてきて!水中は蛙の子がいるからなんとかなる!」
「行って奏出さん。水中の救助者は私が確認するわ」
近くにいた蛙吹さんは会話が聞こえていたのか、私の方へと目配せをしていた。
その視線を遮るように、彼が立ち上がりギャングオルカの方へと目がけて駆けだした。
「早く!」
「……わかりました!あとはお願い!」
人魚から人の姿に戻り、彼の背中を追いかけるように走り出す。
彼の白と赤い髪が風を受け、後ろに向かってなびいていく。
どうしてはわからない。
その後ろ姿を目にし、なぜか走馬灯のように彼との思い出が一気に駆け巡る。
走っているせいなのか。
その背中に何かを感じているのか。
心臓が激しく脈を打つ。
追いつきたい。
いや、違う。
追いつく。絶対に。
少しだけでもいいから、足を前に出すんだ。
自分を奮い立たせながら。
無我夢中で、私は目の前の憧れを追いかけた。
※補足
JCS:人の覚醒状態を示すもの。
1~3桁まであり、桁が増えるごとに覚醒度は悪くなります。
2桁だと声掛け等の刺激で目を覚ましますが、目は閉じている状態です。
気になった方はグーグル先生に相談してください。
chase
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