彼は簡単には追いつかせてはくれなかった。
距離が大きく離れ、彼は私よりもうんと早く現場に辿り着いていた。
息を切らし、やっとの思いで到着した時には、信じがたい光景が広がっていた。
地面に横たわっている真堂君。
夜嵐君と彼は、真堂君を助けるわけでもなく、協力してギャングオルカを倒すわけでもなく、いがみ合っている。
目の前の敵を制圧する雰囲気ではない。
ギャングオルカもこの状況に怪訝な表情を浮かべている。

試験そっちのけで混沌した状況。
どうすればいいのか、判断できなかった。

「真堂君!」

まずは救助を優先しよう。
横たわる真堂君の肩を揺すれば、微かなうめき声が聞こえた。
かろうじて意識はあるようだ。

「!!」
「人魚の子、なかなかいい瞬発力!」

突然向かってきたサイドキックのセメントガン攻撃を水壁で防いだ。
こちらの様子が目に入ったようで、ギャングオルカは挑発的な笑い声をあげる。

「稚魚、知ってるぞ。お前は陸じゃ非力で弱いという事を。だから普段から水を操っているのだろう」

図星だ。何も言い返せない。
ギャングオルカは私の弱点を見抜いている。

陸よりも水中に順応しているため、基礎体力は平均以下。
腕力や脚力も低く、走るスピードは圧倒的に遅い。
平地を進む時は水を操って波に乗り、接近戦に持ち込まれないように大量の水で防御力を高めてきた。
しかし今の相手は同系統の個性であるギャングオルカ。
同じように水を好む相手に、私の個性は逆効果になってしまう。
周りに被害が行かないように防御は出来ても、攻撃は出来ない。

「轟君!氷結でギャングオルカの関節を固めて!」

ヒーロー殺しみたいに俊敏に動き間合いを詰めてくるタイプではない。
それなら各関節を固めてしまえばある程度の動きは封じる事が出来るはずだ。
頭脳戦は得意じゃないから得策かはわからないけど、やってみる価値はあると思う。

「轟君!!」

彼は私に答えない。
むしろ氷は使わず、炎の個性をギャングオルカに放っていく。
夜嵐君もそれに対抗するように個性を放ち、互いの軌道を歪めていた。
2人は言い争いを繰り広げている。

エンデヴァーが嫌いだ。
あんたはエンデヴァーと同じだ。
夜嵐君の発言に彼は目に見えて苛立っていく。
冷静な判断が出来ていない。

「2人とも、やめ……!!!」

夜嵐君の放った風が、私のもとへと彼の炎を誘った。
迫りくる赤。
高温の空気と炎が目の前に迫っている。

「あっつ……!」


消火しようと放った水が熱を帯び、私の右肩に降りかかった。
ひりひりと染みる熱さに、堪えきれず声が漏れだす。
足の力が抜け、その場に崩れ落ちるように膝を付けた。

「奏出さん!!……なにしてんだよ!!!」

この声は緑谷君だ。
応援に来てくれたのか。
後ろを振り向けば、真堂君を助け出している姿が目に入った。

「自分の生み出した水で火傷をするとは情けない。やはり稚魚だな。生まれたばかりの魚も同然」

ギャングオルカの罵る声を聞いて、彼がこちらを見た。
その顔から焦りと不安の色が垣間見える。
一瞬の隙をギャングオルカは見逃さなかった。

「焦ちゃん!前!!」

ギャングオルカの超音波をもろに受け、彼は崩れ落ちる。
攻撃が止み、サイドキックがチャンスと言わんばかりに避難所へと動き出す。

「させま……せん!!!」

行く手を阻むよう、滝のように大きな水壁を作り上げた。
少し遅れて、手前の地面が大きな轟音を立て、大きくひび割れていった。
突然荒れ果てた地形に、サイドキックは足を止める。

「おい奏出……何で俺をかばった。俺の事嫌いじゃねえのか……」

どうやら地割れは真堂君の個性みたいだ。
爽やかな笑顔を浮かべていた時からは想像できない程、一変した態度。
あまりの変わりように思わず苦笑する。

「……正直苦手。君みたいな世渡り上手な人は」

私を池に突き落としたいじめっ子のリーダー格。
その子は二面性が強く、容量のいい子だった。
普段素行が言い分、私がいじめられていると訴えても疑われることはなく、咎められることもなかったのだ。
それ以来、私は打算的で極端に裏表のあるような人が直感的にわかると、避けてしまうようになった。

「余所行きの顔なんかより今の方が全然いいよ。そっちのほうが、私は好きかな」
「偽善者かよ、お前」
「それは真堂君でしょ」

私も彼も、過去に捕らわれている。
前を向こうと頑張っているけれど、あまりにも長い時間後ろを向きすぎたから、ちょっとの事でまた後ろを振り返ってしまう。
私が真堂君を避けてしまったように。
彼もおじさんの事を綺麗に整理できているわけじゃない。
だから私がいかなくちゃ。
そっちじゃない。こっちを向いてって。


“彩海!”


ねえ焦ちゃん。
あなたがいつもそうしてくれたように。
あなたを救い出して、手を差し伸べる。


「焦ちゃん!」


今度は私がヒーローになる番、だよ。

my turn

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