「彩海。お前がヒーローになった時のコードネームを考えてやったぞ」
「えー?コードネームって何―?」
「コードネームはヒーローの名前みたいなもんだ!お父さんならポセイドン!そんなやつだ!」
ヒーローになりたい。
そう両親に告げた翌日、父は私のコードネームを考えてくれた。
「”メールブルー”。いい名前だろ?」
「メールブルー?どういう意味?」
「あれだ!青の女性って意味だ!」
「青?彩海、どこも青くないよ?なんで青なの?」
「……そのうちわかるさ」
さっきまであれだけ息の合わなかった2人の”風”と”炎”の個性。
その2つがようやく合わさり、ギャングオルカを封じ込んでいる。
更に彼は、追撃しようとしたサイドキックの攻撃を氷結で防いでいた。
今までは苦手と言っていた、彼の2つの個性の同時使用。
彼も成長している。
ちゃんと努力が成果として現れている。
「で、次は?」
しかしギャングオルカは強い。
圧倒的な力を見せつける。
彼と夜嵐君の作り上げた壁も相殺し、自分が携帯していた水分を体中に浴びて乾燥をカバーしていた。
彼も夜嵐君も、追撃出来る体力は残っていない。
不思議な感覚だった。
「ギャングオルカ!!」
考えるよりも先に体が動き、私は人魚に姿を変えていた。
波に乗り、ギャングオルカの目の前に立ちはだかる。
「私は稚魚なんかじゃありません!メールブルーって名前があるの!!」
なんて熱い場所だろう。
ギャングオルカが吹き飛ばしたとはいえ、先ほどまで灼熱の炎が上がっていた場所だ。
立ち上る熱気に汗が噴き出してくる。
大丈夫。私ならできる。
だって、焦ちゃんが作った炎だもの。
ずっと私が憧れ続けた、あの暖かい、真っ赤な炎に。
やっと、触れられる。
「稚魚……!!」
ギャングオルカにかかる水分を奪っていく。
炎で温められた水分はとても熱くて、操るだけでも意識が飛んでいきそうだ。
「彩海!!」
焦ちゃんの声がする。
焦ちゃん、やっと無視するのやめてくれたんだ。
熱い。体全身が焼けるように熱い。
気を抜いたら、一気に力尽きそうだ。
けどやらなきゃ。
やらなきゃ。
「まだああああああ!!!!」
これは、私にしかできないんだから。
「人魚の子、シャチョーの頭に直接触ってる!」
「あの子もバテバテ!顔も真っ赤!」
「でも、シャチョーが再び乾燥していく!」
「まずい!!あの人魚を止めないと!!」
邪魔しないで。
いつも助けられてばかりだった私が、やっとヒーローらしいことをしているの。
焦ちゃんをやっと、助けられるの。
「あっつ!人魚の子が熱湯を俺たちのところに降らせてくる!」
「近寄れない!シャチョーのところにいけない!」
やばい。朦朧としてきた。
私、今どんな状況なんだろ。
頭がガンガン痛む。
熱くて、熱くてたまらない。
「愚策だ。俺に捕まる、という事は考えなかったのか?」
「!!」
ギャングオルカが私の胴体を掴む。
手が、ギャングオルカの額からゆっくりと離されていく。
「3人から離れてください!!」
私の手が離れた瞬間。
緑谷君が死角を付き、後ろから攻撃を仕掛けた。
ギャングオルカが間一髪というところで防御する。
朦朧とする中、その様子を眺めていたら、遠くの方で終了のブザーが聞こえた。
「奏出さん!!」
ギャングオルカはゆっくりと私を地面におろした。
緑谷君が私の顔を覗き込んでる。
あまりの熱さに個性を維持できず、いつのまにか人魚から人の姿へと戻っていた。
「すごい熱!!早く冷やさないと!」
「まったく無茶をする。そういうところは父親譲りだな」
ギャングオルカの声が聞こえたと同時に、大量の水が降りかかってきた。
ひんやりとした感覚がとても気持ち良くて、思わず目を閉じる。
ああ、そうか。
試験は終わったんだ。
「熱中症になっているだけだ。冷やして塩分を取らせろ。そしたら回復する」
「は、はい!」
「稚魚……じゃないな。メールブルー、か。やっと名前にふさわしくなったじゃないか」
「え……?」
ギャングオルカは笑った。
どういう意味か聞こうとしたら、また大量の水が降りかかってきてそれは阻止された。
「彩海!!」
「な、七絵……」
どうやら七絵もここに駆けつけていたようだ。
七絵が作り出してくれた水のおかげで大分体が冷えたのか、どうにか体を起こすことが出来た。
けどまだガンガンと頭痛はするし、力が上手く入らない。
「何無茶してんの。ばかね、あんた」
「だって……」
「もっと冷静なればこんなにならずに済んだだろうに」
七絵の的確な指摘が突き刺さる。
返す言葉もない。
「焦ちゃん……」
近くにいた彼と目が合った。
彼は私から目を逸らさなかった。
無視することなく、しっかりと私を捉えている。
「……ばか!!」
私の突然の暴言に、周りはぽかんと口を開けていた。
もちろん、暴言を受けた当事者である彼も。
「何で私の事ずっと無視するの!?戦ってる時だってむきになって全然話聞こうとしないし!」
「わ、悪い」
「焦ちゃんがあんな態度取るから他校の人にも私達、仲が悪いんじゃないかとかまで言われるし!目の前で焦ちゃんが嫌い、なんて言われても文句も言えないし!!」
目の前で嫌い?
その言葉に反応したのか、夜嵐君は首をひねっていた。
一方的に責め立てられているのが気にくわなかったのだろう。
彼は眉間に皺を寄せて、私に詰め寄った。
私たちの間合いが縮まる。
「お前だってなんだよ、轟君って。いつもみたいに呼べよ」
「しょうがないでしょ!焦ちゃんって呼んだらまた周りに変なこと言われちゃうじゃない!」
「そんなの言わせとけばいいだろ」
「そんなのって何よ!私がどんな気持ちで……!!」
くらくら、した。
一気に大声でまくしたてからだ。
私は彼の胸の中にもたれるように倒れ込む。
「焦ちゃん、よかった……」
よかった。
焦ちゃん、いつもみたいに話をしてくれた。
またこうして彼に触れることが出来た。
ずっと不安だった気持ちが、一気に晴れていく。
「もしかして……奏出さんの彼氏って、あんたか!!」
夜嵐君は大きな声はよく通る。
頭が痛む私には少し刺激が強かった。
だがそのおかげで、ふと我に返ることができた。
「……取り込み中悪いが、この後結果発表もある。早く着替えに行け」
ギャングオルカの発言に、私は羞恥心に襲われる。
そうだ。今は仮免試験会場にいるんだ。
雄英でもないし、私達2人だけではない。
相澤先生にも釘を刺されていたのに。
「夜嵐」
彼から離れようとした瞬間、たくましい腕が私の肩を抱いた。
「こいつは俺の彼女だ」
俺の彼女。
その言葉に、ただでさえ熱い頬がもっと熱くなる。
さっきの夜嵐君の声で周りの注意が集まっていたらしく、たくさんの受験生に注目されてる気がする。
嬉しいけど、めっちゃくちゃ恥ずかしい。
彼は大して気にしてないみたいだ。
「彩海。さっき熱湯が掛かっただろ。冷やしてやる」
「う、うん……」
彼は私の髪をかき分け、右肩を出した。
昔に負った火傷の傷が露わになる。
「奏出さん……その傷……」
緑谷君は色々と察したのだろう。
何かを言おうとしたけど、そのまま口をつぐんだ。
彼が作り出した氷が私の肩を覆い、傷が隠される。
それを合図にしたように、近くにいた七絵が呆れた顔で私の左腕を引っ張り上げた。
「ほら、控室行って着替えるよ。火傷もそんな深くなさそうだし、大丈夫でしょ」
「う、うん。ありがと、七絵」
ふらふらと、ゆっくりと立ち上がる。
七絵に捕まりながら控室へと進みだそうとした時だった。
「彩海」
彼が私の名前を呼ぶ。
少し躊躇したように、少し間をおいて言った。
「……助けてくれて、ありがとう」
とてもシンプルな言葉。
一見何の変哲もない、当たり前の言葉かもしれない。
けれどそれは私とって、とびきり甘美な誉め言葉だった。
彼のようなヒーローになりたいと思った時から。
彼を救い出したいと思った時から。
「……うん!!」
ずっと。
ずっと。
私が待ち望んでいた言葉だった。
praise
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