「なんか張り切ってるね、彩海」
ヒーロー基礎学の授業後。
制服に着替えながら、親友の画色七絵はため息交じりにそう呟いた。
「あんたがやる気になると厄介だから困るわ」
「なにそれ」
「まあ体育祭も近いしね。今年も優勝狙ってるんでしょ?」
「別にそういうわけじゃないけど」
袖を通そうとした制服のワイシャツをきつく握りしめる。
先ほどすれ違いざまに聞こえた、彼の噂話が頭によぎった。
「聞いた?1-Aの話!」
「敵(ヴィラン)が来て大変だったんでしょ?」
「なんか爆豪って人とか、轟って人がすごかったらしいよ!」
「ふーん。誰それ?」
「爆豪はヘドロの人だよ!あと轟って、エンデヴァーの息子なんだって!」
「え、そうなの?」
楽しそうに会話を交わす子たちは、私の全く知らない子。
制服から見るに、きっと普通科の子だろう。
私の知らない人たちが、彼の名を呼んでいる。
私の知らない人たちが、彼の話をしている。
それは喜ばしいはずなのに。
「……彩海?」
この訳の解らない焦燥感は、なんなのだろう。
「彩海ってば!」
「へ?」
「制服!!」
「え……?わっ!」
親友の声に我に返る。
無意識に個性を使っていたらしく、私の制服はびしょ濡れになっていた。
「な、七絵……あの……」
「あたし、帰るからね」
「……はい」
もう着替えれば帰宅するだけ。
けれど、制服が乾かないことには帰ることができない。
私はため息をつき、仕方なしに替えのTシャツに袖を通した。
irritation
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