雄英体育祭。
日本のビックイベントの1つであり、かつてのオリンピックに代わる催しだ。
その体育祭の開催が刻々と近づいている。
この時期は授業が終わると皆急ぎ足で帰宅し、体育祭に向けて準備をするのだ。
そんな中、私は教室で1人佇んでいた。
「私も早く帰りたい……」
本当は個性を使って乾かすことも出来たが、校内での個性使用は原則禁止されている。
学級委員長の七絵がそんなことを許すはずがない。
窓辺には私のYシャツが風を受けて揺らめいている。
その様子をぼおっと見つめながら、机に頭を伏せていた。
「焦ちゃんも帰っちゃっただろうな」
念のため携帯電話を覗き見る。
彼からの連絡は入っていない。
まあ、今まで下校の連絡をもらったことなんて一度もないけど。
目を閉じれば風の音が聞こえる。
視覚を遮っただけで、いつもより音が鮮明に響いている気がする。
「―――………」
なんでだろう。
とても心地がいい。
思わず鼻歌を口ずさんでいた。
今、ここにいるのが私一人だけだからだろうか。
「――――…………」
身体を起こし、先ほどよりも大きな声で奏でる。
目は閉じたままなのに。
「懐かしい歌だな」
どうして、こんなにも目頭が熱くなるのだろう。
「何泣いてんだよ、彩海」
どうして。
「……焦ちゃん」
涙が流れ出すのだろう。
「なんでここにいるの?」
彼はゆっくりとこちらに歩み寄る。
その姿はなぜだかいつもより大人びて見える。
「わかんねえけど……なんか、呼ばれた気がした」
窓から吹く風が、私と彼の髪を揺らす。
はためくシャツの音。
静かな教室に、2人きり。
「……変な焦ちゃん」
まるでここの空間だけ、別の世界みたいに感じた。
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