「焦ちゃん」

思わずこぼした彼の名。
昼食の待ち列に並んでいると、前に並んでいる彼を見つけた。

「偶然だね!こんなところで会うなんて!」
「ああ」

不愛想な態度にそっけない返事。
けれど反対に会えたことが嬉しくて私の頬は緩んでいた。

「へえ、君が噂の轟くんか」

その一言で、ふと我に返る。

「彩海のクラスメイトの画色七絵です。よろしくね」

彼は小さい会釈をした。
親友の表情は見えないが、含み笑いでこちらを見ていることが容易に想像が出来た。
きっと、後でたくさんからかわれるのだろう。

「ねえ焦ちゃん。今日も一緒に帰ろうよ」
「時間が合ったらな」
「少しぐらい待ってくれてもいいのに。いじわる」

彼の口角がわずかに上がる。
その表情に私の胸は一気に締め付けられた。
こんな些細なことで舞い上がってしまう私は結構単純なのかもしれない。

「デクくん、なんだろうね?」

突然、後ろから甲高い女の子の声が耳に届いた。
デクくん、とは確か緑谷くんのあだ名だ。
クラスメイトの子だろうか。

「オールマイトに気に入られてるのかもな」

"オールマイト"。
男の子が放ったその言葉に、思わず彼を見る。
口元はまた、いつもと同じように下がってしまっている。

「焦ちゃん」

思わず、彼の袖を引く。
彼は横目で声の主を見て、すぐに前を見据えた。
私に背を向けた彼の表情は、後ろからではわからない。

「……悪い」

目の前の背中はとても悲しそうに見えて。
なんだか胸が強く痛んだ。


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