体育祭の開会式前。
ジャージに着替えた私は、1-Aの控室に向かっていた。
数分前、2年生の控室に訪れた相澤先生の頼みごとを果たすためだ。
「焦ちゃんのクラスとは、私は何かと縁があるなあ」
独り言を小さくこぼし、1-A控室の控室のドアを軽やかにドアをノックする。
扉を開ければ、生徒たちの視線が一気に私へと集まった。
「奏出さん!?」
「緑谷くん、久しぶり!」
たまたまドアの近くにいた緑谷くん。
私を見るなり、恥ずかしそうに顔を赤く染めて視線をそらした。
前より少しは慣れてくれたと思ったけど、打ち解けるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「と、轟くんに用、ですか?」
「ううん、違うの。爆豪勝己くんって人を探しているんだけど……」
私のその言葉に控室が一気に静まり返る。
そして皆の視線が1人の男の子に集中した。
「あれ、君は……」
"氷の奴ばっか追っかけて、楽しいか?"
以前そう私に投げかけた男の子。
相変わらずの鋭い目つきは、ただならぬ威圧感を放っている。
「てめぇ、ギョジンか」
「ぎょ、ギョジン!?」
あの時と言い、今と言い、何て失礼な子なんだろう。
平常心を保つため、数回咳払いをした。
「2-Aの奏出彩海です。相澤先生から頼まれてきたの。少しだけいいかな?」
「……チッ」
ただ呼んだだけなのに、なぜ舌打ちをされなければならないだろう。
納得はいかないが早く用事を済ませたい。
爆豪くんと一緒に控室を出ると、それを合図にしたかのように中の子達が一気に騒ぎ出した。
「で、なんだよ?」
どうやら爆豪くんは大して気にしていないらしい。
「開会式での選手宣誓、今年の1年生は爆豪くんがやるみたいなの。私、去年やったからその例文を見せるように先生に頼まれて」
例文の書いた紙を手渡すと、爆豪くんは無言で受け取った。
一通り目を通したのか、面倒くさそうな表情を浮かべて紙を突き返す。
「こんなん、なくたって出来る」
「じゃあ心配いらないね」
「お前今年もやんだろ?」
「う、うん。一応、今年も選手宣誓は任されてるけど……」
「あっそ」
自分から聞いたというのにこのリアクション。
言いたいことはあるが、ここは1つ大人になろう。
「じゃあ私行くね。今日は頑張ろうね」
その場を去ろうと踵を返した瞬間。
「おい」
腕を咄嗟に捕まれる。
爆豪くんは真っ直ぐな瞳でこちらを見据えている。
けれどそのまま何かを言うわけではなく、私を見つめたままだ。
「……やっぱ、なんでもねえ」
爆豪くんは私の手を離すと、何も言わずにそのまま控室へと戻った。
「な、なんだったんだろう……」
爆豪勝己。
なんだか掴めない子だ。
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