「彩海、お疲れー!」
「お疲れ、七絵」

雄英体育祭の午前の部が終了した。
昼食を摂るために一斉に生徒たちは食堂へと歩き出している。
その列に習い、私と七絵もゆっくりと歩き出していた。

「そういえば聞いた?1年ステージに来てるんだって。エンデヴァー」

"エンデヴァー"。
その名前を聞いて、私は思わず立ち止まった。

「……嘘」
「結構みんな噂してたよ。息子の晴れ舞台を見に来たのかな?」

額から冷や汗が滲む。
脳裏にはいろいろな映像がよぎった。
私は今、何をしているんだ。
こんなことしている場合じゃない。

「ごめん七絵!ちょっと行ってくる!」
「え!?彩海?」

私は1年ステージに向かって全速力で駆けだす。
頭の中では、朝方の彼の表情が浮かんでいた。

「焦ちゃん……!」

どうして気づけなかったんだろう。
彼はきっと、私を心配させないように黙っていたに違いない。

No.2ヒーロー、エンデヴァー。
彼の父が来ている。
それが何を意味するかを、私は痛いほど知っていた。

「どこ……焦ちゃん」

1年ステージは人が散って閑散としていた。
もしかしたらもう食堂に向かったかもしれない。
関係者入口から向かおうと通路を駆けだした瞬間だった。

「爆豪く……!!」

通路に佇む爆豪くんの姿が目に入る。
彼の居場所を確認しようと、駆け寄った瞬間。

「静かにしろ!」

突然、塞がれた口。
小声で怒鳴りつけるその態度に怯み、私はされるがまま棒立ちになった。
どうやらこの先の曲がり角で誰かが話をしているらしい。

「話って何?」

この声は、緑谷くんだ。
そしてそれに応える、聞き覚えのある声。

間違いない。
彼がそこにいる。

「個性婚って知ってるか?」

私の口を覆っていた爆豪くんの手が自然と降りた。
立ちすくんだ私の耳に、2人の会話が嫌でも流れ込んでくる。

彼は緑谷くんに語りだす。
彼の過去を。
彼の決意を。
彼の声が響く度、私は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
そして、脳裏に幼い頃の記憶が次々に蘇る。

「ごめん、なさい……」

君を救い出したい。
そう願うのに、私はいつも無力なままだ。

「……おい!!」

爆豪くんの声に、我に返る。
緑谷くんと彼の姿は見当たらない。
どうやら話はとっくに終わったようだ。

「ご、ごめんね。少し考え事してた」
「知ってたのか?」
「え?」
「轟の……」

少しだけ気まずそうに目を背ける爆豪くん。
らしくない態度。
仕方ないか。
彼の過去を聞いたら、あまりの壮絶さに驚いてしまうだろう。

「知ってるよ。焦ちゃんとは幼馴染だもん」

脳裏にフラッシュバックした、あの日の記憶。
歯車が狂いだした、あの瞬間から。

「ずっと側で……見てきたんだから」

何もできない、無力で非力な自分が憎くてたまらないんだ。


self hated

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