「お疲れ様!今年も優勝おめでとう、彩海ちゃん!」
「ありがとうございます」
あれから自宅に帰り、着替えを済ませた私は轟家にお邪魔していた。
冬美さんから晩御飯を一緒にと招かれたのだ。
母が合唱部の合宿で家を空けるため、冬美さんに頼んでいたらしい。
「今日はごちそうだからね!たくさん食べてね」
「わあ、おいしそう!」
食卓に並べられた豪華な夕食に私は目を輝かせる。
空腹につられて、お腹の虫も鳴きはじめた。
「……はあ」
「ちょ、ちょっと!なんでため息つくの焦ちゃん!」
隣の彼の呆れたため息に、一気に羞恥心が込み上げてきた。
そんな様子を冬美さんは笑って眺めている。
「焦凍。そんな態度ばっかとってると彩海に愛想尽かされちゃうよ。ほら、彩海ちゃんも早く食べて」
「はい!……って、焦ちゃんなんでポテトサラダ全部食べちゃうの!私好きなの知ってるくせに!」
「お前が早く食わねえのが悪いだろ」
「焦ちゃんのばか!」
よかった。
いつもみたいに彼と接することが出来ている。
私と彼のやり取りを見て、冬美さんは声をあげて笑った。
「焦凍は彩海ちゃんの前だと本当素直じゃなくなるね」
その笑顔に、私は頭の中であの人の顔が浮かんだ。
「彩海ちゃん、どうかした?食べないの?」
「ご、ごめんなさい!」
幼い頃の記憶。
同じようにここで微笑んでくれていた、おばさんと冬美さんの笑顔はそっくりだ。
冬美さんだけじゃない。
轟家の兄弟の笑顔はきっと、母親譲りなのだろう。
みんなとても、口元に綺麗な弧を描いて笑うのだ。
「ご飯、おいしかったね!」
夕食も終え、焦ちゃんとお屋敷の縁側で涼んでいた。
月明かりが照らす彼の横顔はなんだか綺麗で、少し色っぽく見える。
「……何も聞かねえのか」
少しの間の沈黙。
彼がそれを破る様に口を開いた。
互いに目は合わせないまま、ただ月を見つめている。
「うん。聞かない」
夜風が吹き、私の髪がなびく。
「焦ちゃんは大切なことは自分から話してくれるもの」
ゆっくりと彼に視線を移す。
彼も同じように、私を見据えた。
自然と視線がぶつかり合う。
「緑谷と試合をして思った。俺は……向き合おうと思う」
彼の声は少しだけいつもより低くて。
か細く、今にも消えてしまいそうだ。
「そっか」
緑谷君、ありがとう。
彼が一歩を踏み出そうとしている。
それは間違いなく、緑谷君のおかげだ。
「話してくれてありがとう、焦ちゃん」
彼はもう一度スタートラインに立とうとしている。
自分の過去を清算しようと、勇気を振り絞っている。
私も、同じように。
向き合わなければならない時が来たのかもしれない。
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