外は晴れやかで、雲一つないほどの晴天だ。
窓辺から入り込む風を肌に受けながら、心地よさに思わず目を細める。
カーテンがゆらゆらと揺れ動く光景は、まるでスローモーションのようだ。

ぱらぱらと手元の本のページが捲れ上がった。
物語は終わりのページへと変わっている。
1ページに描かれている挿絵が目に入り、人差し指でその絵をなぞった。

「……彩海」

聞き覚えのある声に、顔をあげる。
ドアの先には、彼の姿があった。

「めずらしいね。焦ちゃんが迎えに来るなんて」

手元の本を閉じると、窓の鍵を閉めた。
鞄を手に取り、私は彼に向き直る。

「じゃあ行こっか」
「ああ」

2人で私の家を後にして、病院へと向かう。
昨日の今日だからか、知らない人たちにたくさん話しかけられた。
彼は慣れないためか、何度か疲弊したかのように大きなため息を吐く。
その様子を横目で見て、思わず苦笑してしまった。


"焦ちゃんはすごいから、きっとあっという間に有名人になっちゃうんだろうなあ"


以前食堂でこぼしていたあの言葉はやはり現実になった。
きっと、この先も彼はずっと多くの人たちに認知され、注目されていくのだろう。
その様子が容易に想像できる。

「彩海ちゃん、ついに彼氏を連れてきたね!」
「ち、違うよ!彼氏じゃない、よ!」
「昨日体育祭に出てたわねえ。轟くん?だっけ?昨日はすごかったねえ!」

行きつけの花屋さんのおばさんも体育祭を見ていたようで、彼に好奇の眼差しを向けていた。
リアクションに疲れたのか、彼は無表情で会釈をする。

「彩海ちゃんはいつもうちで花束を買って行ってくれるのよ。今日は彼氏も連れてきてくれたし、サービスしとくね!」

おばさんは笑っていつもより1回り大きい花束を作ってくれた。
赤と白をベースで彩られた花束はとてもスタイリッシュだ。

「ありがとう!行ってくるね!」

花屋を過ぎれば、病院は目と鼻の先。
受付を済ませて、あっという間に病室の前にたどり着いた。

「……焦ちゃん?」

彼は顔を俯かせて、立ち止まっていた。
扉を開けることを躊躇している。
その姿に幼い頃の彼の面影が重なった。
今も昔もそうだ。
彼は心の中で悲鳴を上げているんだ。

「大丈夫」

自然と私は彼に手を伸ばしていた。
彼の額に自分の額を合わせる。
まるで熱を測るかのように。
まるで互いの存在を確かめるかのように。
彼の火照った体温と、少し浅い息遣いが伝わってくる。

「緑谷くんも言ってたでしょ?君の力じゃないか、って」

普段なら恥ずかしくてたまらないはずなのに。
不思議とこの距離感が今は心地よい。

「焦ちゃんは焦ちゃんだよ。ただの15歳の男の子。家が隣の私の幼馴染。そして……」

私の、ヒーロー。

そう言いかけて、奥に飲み込んだ。
ゆっくりと身体を離すと、少し驚いた表情の彼がこちらを見ている。

「ほら行こう。おばさんが待ってるよ」

私のその一言に、彼は深く長い深呼吸をする。
扉が開いていくと同時に、窓辺から差し込む光が彼を照らしていた。


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