彼とお見舞いに行ったあの日から、私は訳の解らない喪失感に追われていた。

「彩海?」

親友の声で我に返る。
授業は終わっていたようで、周りは休み時間特有の活気で賑わっていた。

「どうしたの。教科書と睨みあいっこしちゃってさ」
「いやー、わからないところがあったから、つい見入っちゃったの」
「何言ってんだか」

あきれ顔の七絵。
わざとらしく肩を落として1つ大きいため息をもらした。
そんな親友の大げさな態度に、思わず苦笑する。

「行こ。早く着替えないと間に合わないよ」
「そっか。次はヒーロー基礎学だっけ」
「今日はなんか特別な形式の授業って先生が言ってたよ」
「ふーん。なんだろ」

2人で談笑しながら更衣室に向かう途中、相澤先生とすれ違った。
相変わらず、気怠そうな仏頂面。
けれど見かけによらずとても熱い先生で、私は好きだ。

「相澤先生、こんにちは」
「奏出に画色か。今日はよろしく頼むぞ」
「え?」

私たちは同時に首を傾げる。
今日はよろしく頼む、とは一体どういう意味だろうか。

「まあとりあえず早く準備しよ」
「そうだね」

更衣室についた私たちは急いでコスチュームを身にまとった。
演習場に出れば、もうほとんどの生徒たちが集合している。
心なしかいつもより人数が多いのは気のせいだろうか。
そして見知らぬ顔も何人か目に入る気がする。

いや。

「緑谷くん?」
「奏出さん!?どうしてこちらに……」

どうやら、気のせいではないらしい。

「なるほどね。だから相澤先生によろしく、って言われたのね」

七絵も理解したようで、困ったように眉を下げて苦笑した。

「みんな揃ったな」

声の主を見れば、先ほどの相澤先生がまた気怠そうに姿を現した。

「今日は1-Aと2-Aの合同授業だ。体育祭も終わって、次は職場体験が控えているため、その前の実戦練習を行う」

職場体験。
実際のヒーロー事務所に1週間伺い、プロの活動を体験するというもの。
確か1-Aの子達は実際に敵(ヴィラン)にも遭遇しているはずだ。
プロの活動を体験、というよりは実践に慣れる、という方が合っているのかもしれない。

「1年生は先日各自で希望事務所を提出したはずだ。先輩の中には、自分の希望した場所で職場体験をしている人たちもいる。たくさんのことを学ばせてもらえ」

素直な明るい返事が1年生たちから聞こえてきた。

「2年生は1年間学んできたことを身を以て教えてやれ。みっともない姿は見せんなよ」

その先生の一言で、2年生の空気が一瞬張りつめた。
無理もない。
相澤先生は去年のヒーロー科を1クラス落第させた人。
私たちの代では恐れている人たちが多いのも事実だ。

「じゃあ、これから2対2での戦闘を行ってもらう。事前にこちらでペアを決めてある。各自確認しろ」

そう言われ回されたプリントを見れば、2年生と1年生毎でペアが記載されていた。
自分の名前を探そうとした瞬間、いきなり後ろから肩を叩かれる。

「よろしくな!奏出!」
「え?私、稲妻くんとペア?」
「ああ!」

稲妻君はプリントを指差しながらこちらに満面の笑みを向ける。

"2年 Eチーム 稲妻雷光 奏出彩海"

確かに、そう記載してある。

「もしかして、これって……」
「彩海も思った?やっぱりそうだよね」

"1年 Aチーム 轟焦凍 爆豪勝己"

この組み合わせは、体育祭の1・2位のペアだ。
そして、それは私達も同じ。

もしかして。
もしかすると。

「第1試合の組み合わせを発表するぞ。1年Aチーム対2年Eチームの対戦だ。」

予感的中。

「大丈夫じゃない……よね」

隣の親友は、慰める様に私の肩をたたいた。


guess right

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