試合開始前、猶予として与えられた3分間。
私は稲妻くんと一緒に作戦を練っていた。
「相性的に爆豪は奏出を避けて、俺に攻撃をしかけてくるよな」
「そうだね。あと、焦……轟くんは私の能力を警戒して歌での洗脳を阻止したいから、きっと間合いを取って攻撃をしてくると思う」
「轟の個性は凍結だっけ?」
「ううん、半冷半熱。右手で凍らせ、左手で燃やすの」
「なるほど。じゃあ奏出の個性は右手とは相性が悪いわけか」
「うん。でも、1つだけ轟くんが知らないことがあるの。実は――……」
先ほどよりもさらに小声で耳打ちすると、稲妻君は企むかのように笑った。
「なるほど。それは行けるかもしんねえ!」
粗方の作戦会議も終わり、スタートポジションに着いた。
それに続いて彼と爆豪君も向い合わせに立ちはだかる。
私の正面に立つ、彼の瞳は痛いほどまっすぐで。
「よし、揃ったな」
恨み憎しみに満ちていた以前の彼じゃない。
「――……試合開始!!!」
新しい、彼だ。
「おらあああ!死ねええええ!!!!」
私と稲妻くんの読み通り。
爆豪くんが突如、稲妻くんに向かって大きな一振りを爆発させた。
それを相殺するように電撃で攻撃する稲妻くん。
けたたましい爆音と煙幕があたり一面に広がる。
本来ならここで間合いを取るのが妥当だ。
けれどそうすれば彼らの思うツボとなってしまう。
私は敢えて爆音の方向へと向かって突き進んだ。
「わっ!!」
しかし、それは突如現れた氷の壁に阻止された。
身を翻した私は、地面に着地する。
「逃げんな、彩海」
煙がゆっくりと晴れていく。
「焦ちゃん……」
正面には、彼がいた。
あまりの気迫に、思わず息をのむ。
彼の真剣な眼差しに、思わず怯んでしまいそうだ。
「!!」
一瞬で拘束される、両足。
身動きが取れなくなった私は、体勢を大きく崩す。
「こんなもんかよ」
直に伝わる冷気に、身体が震えだした。
一気に奪われる足の感覚。
彼の氷結は私が記憶しているものとは全くと言っていいほどレベルが上がっている。
「まだ、だよ!」
真っ直ぐに彼に向かって指を指した。
私の指尖から、勢いよく飛び出す一本の水流。
彼は咄嗟に氷の壁でそれを防ぐ。
しかし、私の水流はそれを貫いた。
この勢いはウォーターカッターに匹敵するものだ。
「あっぶねえ」
だが、冷気に体温が奪われるためか、自分が思っていたよりも威力が弱い。
このままでは分が悪く、負けてしまいそうだ。
私は1つ大きく深呼吸をすると、感覚のない足元に意識を集中させた。
「出たな」
拘束された足は、一本の尾ひれへと姿が変わる。
彼は先ほどよりも警戒し、身を低くした。
「焦ちゃんにはまだ言っていなかったね」
私の足枷は、氷から大量の水に変わり、尾ひれを優しく包み込んでいく。
その様子をみて、彼は目を大きく見開いていた。
「お前……氷は変えられないはずじゃ……!」
「ちょうど去年の今頃かな。人魚化すれば固体の水分も操れるようになったんだ。人のままだと気体と液体からの水分しか操れないけど」
彼が氷結したものをすべて水に戻し、彼の右半身を覆った。
渦巻く水流は、簡単には振り切ることの出来ない水枷だ。
彼に残されたのは左手足のみ。
「今度は焦ちゃんの番だよ」
我儘な私の、最後の願い。
こんなこと願うことさえ、おこがましいのかもしれないけれど。
「使って、焦ちゃん」
「お前……!」
勇気を出して、一歩を踏み出してほしい。
どうか、躊躇わないで。
君なら絶対に大丈夫だから。
「焦ちゃん!!」
波を立てて一気に彼の許へと詰め寄る。
埋められた間合いに彼は身構える様に肩を上げた。
「彩海……!?」
彼の左手を両手で包み込む。
仄かに伝わる彼の体温がとても心地よい。
「お願い、焦ちゃん」
君のこの左手で。
私の憧れたその燃え上がる炎で。
「……!!」
私を泡にして、消し去って。
「……やっぱり、私じゃだめなんだね。」
自然と浮かんだ、自嘲染みた笑み。
彼の左頬に手を添えて、あの火傷の跡を優しくなぞった。
「―――………」
ゆっくりとした子守唄を奏でる。
彼は心地よさそうに瞼を落とし、私の腕の中へと崩れ落ちた。
hope
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