思いもしなかった。
彼と2人肩を並べて。
ヒーローコスチュームが入ったスーツケースを持って歩いて。
同じ場所に向かって歩く。
そんな日が来るなんて。
「もうすぐつくね」
「ああ」
いつもより口数の少ない私たちの間に広がる沈黙。
そう、いつもなら。
この2人の時間が楽しくてしょうがなくて。
いろんな話をしたくてしょうがないはずなのに。
どうしてか彼を目にすると胸の奥がざわつく。
自分の感情がうまくコントロールできていない。
この焦燥感は、いったい何なんだろう。
「来たな。2人とも」
目的地に到着した私たちを待ち構えていた人物。
No.2ヒーロー エンデヴァ―。
彼の父親であり。
彼の忌み嫌う人物でもある。
そんなおじさんのもとに自分の意思で来た。
今までの彼からしたら考えもつかないことだ。
「今日から1週間、よろしくお願いします」
「固いのはなしだ、彩海。去年よりどのぐらい成長したのか見てやる。ついてこい」
先に進みだすおじさん。
後に続こうとした瞬間、彼はいきなり私の腕をつかんだ。
「何?焦ちゃん」
「お前、怒ってるのか?」
「どうして?」
彼は口をつぐんだ。
何か言いたそうなその表情。
その様子を見て、私の胸の奥がざわつき始める。
「怒ってないよ。ほら、はやく行こう」
私は彼の手をゆっくりと振りほどこうとした。
けれど彼はそれを許さず、掴む力を先ほどよりも強める。
「やっぱりお前、怒ってんだろ」
「怒ってないってば!!」
ついむきになり荒々しい返答になってしまった。
しまった。
そう思った時には遅い。
「……そうかよ」
彼は私の手を放し、歩き始める。
その態度から、彼を怒らせてしまったことは明白だった。
「本当、何なの」
落ち着かせようにも、収まらないこの苛立ち。
いったいどうすればいいのだろう。
私たちの職場体験は最悪の形で幕を開けた。
impatience
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