世間を今騒がせているヒーロー殺し。
前例から推測し、エンデヴァ―は保須市に再び出現すると踏んだ。
そのため私たちは今、保須市でパトロールをしている。

「ねえ、メールブルー。少し聞いてもいい?」

去年もお世話になった、顔見知りの先輩が話しかけてきた。
ちなみにメールブルーとは私のコードネームだ。

「エンデヴァーさんの息子…ショート、だっけ?」
「はい」
「メールブルーの彼氏なの?」
「え!?」

突然の発言に思わず間の抜けた声を上げてしまった。
どうしてそう思えるのだろうか。
職場体験の初日から気まずくなった私たちはろくに口もきいていないのに。

「違います。ショートは幼馴染です」
「そうなの?それにしては2人とも互いに意識してる感じがしたんだけど」
「え?」
「進展があったら教えてね」

先輩は意地悪そうに笑い、再びパトロールに戻った。
私は前にいる彼にそっと視線を向ける。

変なの。
彼を見ていると自分が変になる。

ずっと収まらない焦燥感。
そして同時に切ない気持ち。
いろんな感情が私を支配する。

彼がいる。
ただそれだけなのに。

どうしてこんなにも翻弄されているんだろう。

「きゃああああ!!!!!」

突然響き渡る悲鳴に、一気に現実へ引き戻された。

「事件だ!向かうぞ!」

多くの人たちが逃げ回っている光景が目に入った。
瞬時に先輩たちは騒ぎの中心に向かって進んでいく。

「ケータイじゃない、俺を見ろ焦凍ォ!」

彼は進行方向とは反対の方向へと踵を返した。
その態度に対しておじさんは声を荒げている。

「そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援頼む」

自然と彼と目が合った。
勢いよく私の横を通り過ぎていく。

「友だちがピンチかもしれねえ」

友だち。
その単語に、直感的に思った。

緑谷くんだ。
彼を動かした人。
きっとそう。

「彩海!お前までどこへ行く!!」

気が付けば走り出していた。
おじさんの静止さえも聞かずに、彼の背中を追いかけている。

「彩海!なんで来てんだ!クソ親父のところへ戻れ!」
「やだ!」

私のはっきりとした拒絶。
彼は目を見開いている。

「もういやなの!」

ああ、そうか。
そうだったんだ。

「これ以上、知らない焦ちゃんが増えるのは嫌!」

この焦燥感の理由は、きっと。

「は?何言って……」

彼を救いたかった。
けれど何もできなかった。
私が弱いせいで。私が無力なせいで。

彼は今、前に進んでいる。
私の知らない、遠い存在になっていく。
そんなあなたが羨ましくて。憎くて。妬ましくて。

「お願い……」

彼を突き動かした人は、私じゃない。
それがとても悔しくて。とても苦しくて。

「少しだけでも傍にいさせて……」

なんて醜い嫉妬心だろう。
それでも、きっとこれが理由なんだと思った。

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