ヒーロー殺しが拘束された。
その一斉一風のニュースに世間は盛り上がりを見せている。
そんな中、怪我を負った私たちは、保須市の病院に入院していた。
「情けないなあ」
私はベンチに腰掛けて、ぼおっと空を眺めていた。
ヒーロー殺しの言葉、そしてあの時の光景が私の脳内を占拠している。
"余計な感情を捨てろ、女"
赤の他人の、ヒーロー殺しに見抜かれた私の邪念。
言われた通りだ。
本当なら私はあの時死んでいた。
しかし、ヒーロー殺しは私を殺さずに生かした。
「体育祭1位を取ったって、こんなざまじゃ顔向けできないな」
敵に情けをかけられ、生き延びたなんて。
自然と自嘲な笑いを浮かぶ。
けれどそれは脳裏によぎった光景によってすぐに止まった。
綺麗だった。
本当に綺麗だった。
鮮やかで、煌びやかな氷と炎。
私がずっと憧れて、求めていたもの。
「……奏出さん?」
それを引き出したのは、私じゃなくて。
「緑谷くん」
この子なんだ。
「ここにいたんですね。僕たちの病室に来ないから、心配しました」
緑谷くんは私の座るベンチの近くまで歩み寄った。
「緑谷くん、少し話さない?」
隣へ座るように促す。
すると彼は顔を少し赤らめて、遠慮がちに腰を下ろした。
「そんなに緊張しなくていいのに。ほら、肩の力抜いて!」
「は、はい!すみません!」
「さっきよりも肩上がってるよ?」
その純粋な反応に、思わず笑みがこぼれた。
私の様子を見て、緑谷くんは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべている。
「……緑谷くんは、すごいよね」
純真で、無垢で、素直な子。
ヒーローになりたい。
その一心で前に突き進み続ける強い男の子。
どちらかと言えば気が小さい方。
傲慢でもないし、自己顕示欲がとびきり強いわけでもない。
「僕が、ですか?」
「うん。緑谷くんは、私に出来ないことを何でもやってのけちゃう」
「そんなことないです!」
けれど彼は内に熱い思いを秘めている。
それが人を突き動かすのだろう。
「緑谷くんに、お礼が言いたかったの」
私はベンチから立ち上がると、緑谷くんに向かって深々と頭を下げた。
反動で長い髪がするりと落ち、地面に影を作り上げる。
「焦ちゃんを……轟焦凍を救ってくれてありがとう」
緑谷くんが彼と向き合ってくれたから。
緑谷くんが彼をちゃんと、正しい道へ導いてくれたから。
彼は新たな一歩を踏み出せたんだ。
「君のおかげで焦ちゃんは前に進めた。それはきっと、これからも……」
私は最後まで言葉を紡ぐことなく、頭を上げる。
「焦ちゃんのこと、お願いね」
言いたいことは言えた。
これで彼はもう大丈夫。
私は踵を返し、病室へと足を向ける。
「奏出さん!」
緑谷くんの声に、私は振り返ることなく立ち止まった。
「うまく言えないけど……奏出さんも轟くんを救っているうちの1人だと思います。だから、その……」
「違うよ」
緑谷くんの言葉を遮るように、私は言葉を紡いだ。
緑谷くんは私の言葉を待っているように感じた。
「だって私は人魚だもの」
「え……?」
きっと、緑谷くんにとって予想外の言葉。
訳の解らない発言に困惑している表情が目に浮かぶ。
「……じゃあね」
自分の言葉を振り切るように、その場を後にした。
entrust
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