「お前、誰だ」
彼の言葉が地雷原となったのか、男が大声で叫ぶかのように罵声を浴びせた。
「俺は彩海さんをずっと見守ってきた!お前はいつも彩海さんの横にて目障りなやつだ!きっとこの傷だって、お前がやったんだろおおお!!!」
男は私の右肩を露出されるように突き出す。
立っているのもやっとの私が抵抗できるはずもなく、男のされるがままだ。
「それは……!」
私の傷を見て、彼とおじさんは息をのむ。
轟家の人たちには隠していた傷だった。
それをこんな形で明かされてしまうことになるなんて。
「彩海さんを穢していいのは、俺だけだああああ!!!!」
男は大量の蔓を彼に目がけて伸ばしていく。
周りのヒーローたちもそれを避ける様に所々に掃けていく。
先ほどとは比べ物にならない程早いスピードで蔓は病院のフロアを覆い尽くした。
「火をつけてみろ!病院ごと燃えるぞ!お前の妻だって死ぬぞエンデヴァー!!!」
そこまで把握していたなんて思っていなかった。
私の首を絞める力がより一層強まる。
「彩海……!」
天井に氷で足場を作った彼と目が合った。
緊迫した表情の彼を見て、思わず笑みをこぼす。
なぜかは解らない。
「私の……ヒーロー……」
首も絞められてやっとのかすれ声で。
自然とその言葉が零れ落ちた。
「彩海!!」
私の言葉が届いたのだろうか。
彼は私の名前を大きく叫ぶ。
「お前が俺に言った言葉、そっくりそのまま今返す!」
「うるせええ!!!」
男は再び蔓を彼に向かって伸ばす。
それを往なすように、彼はまた別の場所に足場を作りながら飛び移った。
「お前は童話や昔話の人魚なんかじゃない!お前はお前だ!ただの俺の幼馴染。そして……」
その言葉に、あの日一緒にお見舞いに行った日の記憶がフラッシュバックする。
「俺の……大切な人だ!!!」
ああ。君はずるい。
「お前の歌は、誰も不幸になんてしない!!!」
君のその一言で私がどんなに突き動かされるのか。
「歌え、彩海!!!」
知りもしないくせに。
「焦、ちゃん……」
"いいのか?どうなってもしらないぞ"
またあの声が聞こえる。
聞き覚えのある、懐かしいこの声は誰だったかな。
「本当のことを言うと、とても不安だけど」
私は声の主に答える。
「でも、焦ちゃんが信じてくれたから」
"……俺は忠告はしたからな"
深く深呼吸をする。
目を閉じて、懐かしいあの日を思い浮かべながら。
「――――――………………」
荒立った気持ちを静められるような、穏やかで切ないバラード調のメロディー。
男の目からは自然と涙が溢れ出る。
「……彩海、さん」
私を拘束する腕の力が自然と緩んでいく。
彼はそれを見逃さなかった。
「!!」
一瞬で私たちの周りを取り囲む大氷壁が姿を現す。
それと同時に、蔓延る蔓は鮮やかな炎で燃えつくされた。
氷壁のおかげで火は燃え広がることなく、その場で威力が弱まっていく。
「ひい!!!」
彼は瞬時に男の前へ降り立った。
男は怯み、床へ大きくしりもちを付きそのまま後ずさった。
彼は迫りながらしゃがみ込むと、胸ぐらを掴みあげる。
今にも襲い掛かりそうな程の剣幕で迫っていた。
「おい、お前。覚悟はできてるか」
彼の低く重いその声色からは、ただならぬ重圧感が漂う。
男は泣きながら怯え、言葉にならない小さな悲鳴をあげていた。
ゆっくりと彼は右腕を振り上げる。
だめ、だめだよ。
そんなことをしちゃ、だめ。
「焦ちゃん」
気が付けば私は必死にはいずり、左手で彼の背中にしがみついていた。
「やめて……お願い……」
彼は右腕を降ろし、掴んでいた胸倉を離す。
男は目の前で力なく崩れ落ちて行った。
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