男のもとへヒーローたちが飛び降り、あっという間に男を拘束した。
おじさんは私と彼の元へと駆け寄ってくる。

「よくやったな、彩海」
「いえ……私、何も……」
「お前以外の人質はみんな無事だった。お前のおかげだ」

おじさんは深々と私に頭を下げる。
人質、という中にきっとおばさんも入っているのだろう。
ヒーローとしてではなく、一家の大黒柱として頭を下げているようにみえた。

「焦凍。彩海はお前に任せたぞ」

おじさんは周りのヒーローたちに指示を出し、この場を去って行った。
その背中を見て私は安堵のため息を小さく漏らす。

「これ着てろ」

彼は自分のブレザーを脱ぎ、私の肩に掛けてくれた。
上半身が下着姿になっていることを今思い出し、遅れた羞恥心が襲ってくる。

「あ、ありがと焦ちゃん……って、何してっ!?」

彼は私を軽々と持ち上げる。
突然のことに思考回路がついて行かず、ただされるがままだ。

「轟くん!彩海ちゃんをこれから救急病院へ搬送するからこちらへ!」
「はい」

病院の看護師さんが私たちを救急車へと誘導する。
彼は案内されるまま、私を運んでいった。

「焦ちゃん……」


"俺の大切な人だ"


先ほどの言葉は、どういう意味で言ったのだろう。
彼の本心が聞きたい。
そして、私の気持ちも聞いてほしい。

あなたとたくさん話がしたいの。

「彩海。お前には言いたいことが山ほどある」

その口調は少し辛口で、怒気がこもっていた。
自然と肩が上がり、次に降りかかる言葉を身構える。

けれど、反対に私を抱く手つきは本当に優しく丁寧だ。
とても居心地かよい。
先ほど張りつめていた緊張の糸がゆっくりとほどけていくような感覚に陥る。

「ごめんなさい……あのね、焦ちゃん」

あの日から何にも変わっていない。
彼から伝わってくる温かく心地の良い体温。
今も昔も変わらず、私を救ってくれる左手。
やっぱり君は、たった1人の。

「今まで……ありがとう」

私のヒーローだ。

「彩海?……彩海!!」

私の名を呼ぶ彼の声が、遠のいていく。

まだまだ伝えたいことはたくさんあるのに。
おかしいな。瞼が上がってこないや。

「焦……ちゃ……ん」

押し寄せる眠気に勝ることなく、彼の腕の中で意識を手放した。


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