退院後、医者の指示で私は1週間の自宅療養となっていた。
リカバリーガールがわざわざ私の自宅に来てくれるおかげで、怪我の方は順調によくなってきている。
「そろそろかな」
時計を見て私はダイニングへと向かうために階段を降りた。
お菓子をお皿に並べて、お茶の準備をする。
浮かれる気持ちを抑えながら、リモコンでテレビの電源を入れた。
夕方のニュース番組の軽快なBGMを遮るようにドアのインターフォンが鳴り響いた。
「はい。奏出です」
「俺だ」
聞きなれた声。
思わずにやける頬を抑えながら家の中へ彼を向かい入れた。
「焦ちゃん。今日もありがとう」
「ああ」
自宅療養中、彼は毎日私の家に寄ってくれている。
七絵から預かった授業ノートを届けに来てくれるのだ。
「今日は緑谷も連れてきた」
「え?緑谷くん?」
彼の後ろを覗き見ると、緑谷くんが申し訳なさそうにこちらに顔を出した。
「わざわざ来てくれてありがとう!よかったら座って!今お茶を出すね!」
私は2人をソファに座らせると、キッチンへと先ほど準備していたお茶を取りに向かう。
お盆を持ち上げると、少しだけ手に痛みが走った。
順調とはいえ、やはり本調子ではないらしい。
「彩海。お前座ってろよ」
突然、背後から現れたたくましい腕。
それは軽々と私のお盆を取り上げる。
「そんな調子じゃこぼすぞ」
「あ、うん。ありがとう」
彼の不器用な優しさに思わずまた頬が緩む。
緑谷くんにばれないように私は両手で頬を覆った。
「奏出さん、怪我の調子はどうですか」
ソファに腰掛けると緑谷君が心配そうに私の腕と足を見た。
いまだに包帯がまかれているから、傍から見たら重症患者だもんね。
心配されても仕方ないか。
「結構よくなってきたよ。リカバリーガールも往診にきてくれてるし。もう月曜日には学校に行けそう」
「そうですか。よかった」
「じゃあばあさんにもお礼言わなきゃな!」
私は思わず静止する。
突然会話に割り込んできた声。
ここにいる私たちがリカバリーガールのことをばあさんなんて呼ぶはずがない。
ということは。
「お、お父さん!」
「よっ。帰ったぞ、彩海」
リビングの入り口からひょっこりと顔を出したのは父だった。
自然の流れでソファに座り込み、私のお茶を豪快にすすった。
「来てたのか焦凍。それと……君は、焦凍と体育祭で戦ってた子か!?」
「は、はい!」
突然話を振られた緑谷くんは裏返った声で返事をした。
両肩は上がり、顔は真っ赤になっている。
「あの試合よかった!なんか俺が燃えたわ!」
「あ、ありがとうございます!!あの有名なヒーローのポセイドンに褒めてもらえるなんて……!!!」
緑谷くんは顔を真っ赤にして喜んでいる。
そういえば緑谷くんはヒーローオタクなんだっけ。
「はは!そう緊張すんなって!肩の力抜けよ、オールマイトjr.!」
「オ、オールマイトjr.!?!?」
「俺が名づけた!個性がなんか似てるからな!」
緑谷くんは更に顔を真っ赤にして挙動不審になった。
その様子を彼は大して気にする様子もなく、黙々と目の前のカップをすすっている。
「jr.も来てくれてることだし、今日は2人のために夕飯作るわ!」
「え!?」
「彩海手伝え!ごちそうを作るぞ!」
「ちょっと、何勝手に……!」
「じゃあ俺買い出し行ってくるからお前準備しとけよ!」
父は私の声なんて聴く耳も持たず、勢いよく家を飛び出していく。
「彩海、俺は緑谷とここで勉強してるぞ」
「と、轟くん?」
「どうせおじさんのことだ。ああなったらもう聞かないだろ。あきらめろ」
私は大きくため息をつく。
緑谷くんは困ったように私と彼の顔を交互に見た。
「ごめんね緑谷くん。お家の方は大丈夫?」
「はい、連絡すれば大丈夫です。なんか……ポセイドンってテレビとイメージがだいぶ違いますね」
メディアに対して父はクールなヒーローで通っている。
ヒーロー活動だけではなく雑誌のモデルなんかもやっているせいもあると思うけど。
事務所の意向で、あまり素を出さないようにしている。
しかし、海王ヒーローポセイドン。
蓋を開ければお調子者のひょうきんな男だ。
今まで父に出会ったファンの女の子たちが幻滅しているのを何回か目の当たりにしていた。
「テレビより、僕はこっちのほうが好きです」
思いがけない緑谷くんの言葉。
「……ありがとう」
それがなんだか嬉しくて。
私は思わず照れ笑いを浮かべた。
poseidon
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