「どうだ!うまかっただろ!俺のカレー!!」
「はい!おいしいです!」
「だろ!jr.は本当いいやつだなあ!!」

緑谷くんの反応に満足げな父は、高々と笑い声をあげた。
どうやらすっかり緑谷くんを気に入ったようだ。

「いい友達を持ったな、焦凍!」

父のその言葉に、わずかに彼は口角を上げた。
他の人からしたらわかりづらいその微細な変化。
幼馴染の私にはすぐにわかった。

嬉しそうな彼の表情を垣間見れた。
それだけで私も不思議と嬉しくなる。

「jr.、ちょっと俺のコレクションを見せたいんだが、いいか?」
「はい!是非!!」
「よし。じゃあその間にお前ら2人は飲み物買ってこい」
「え?!」
「さあjr.、こっちだ!!」

父はそのまま強引に緑谷君の腕を引いて書斎へと向かった。
その様子に私は苦笑することしかできない。

「行くか」
「う、うん」

彼と一緒に家を後にする。
外はすっかり日が暮れて空は藍色に光っていた。
その色はとても綺麗で。
気が付けば2人して何も言わず空を仰ぎ見ていた。

「……職場体験の時」

彼が口を開く。
私は彼の方へと視線を移した。
ずっと空を仰ぎ見たままの彼の横顔に、思わず見とれそうになる。

「ステインを一瞬でも封じたお前がすげえ遠くの存在に感じた。知らない俺が増えるのが嫌なんて言ったくせに、変わってんのはお前じゃねえかって思った」

彼がそんなことを思っていたなんて。

「だから俺もお前から距離を取った。でも、お前が病院であいつにやられているのを見たとき……」

彼が私を見据える。
その瞳は少し煌めいているように見えて。

「手放しちゃいけねえって、思った」

意外な、思いがけない言葉。
これは本当に現実なのだろうか。
彼がこんなことを言ってくれるなんて。

「焦ちゃん。私、思ったの」

不思議。
自然と思っている言葉がすらすらと出てくる。

「私たちはこれからも互いに変わっていく。たとえ進む道が違っても」

私たちはまだ高校生。
これからいろんな出会いや出来事が待っている。

「焦ちゃんの変わっていく姿を近くで見て私も進んでいきたい」

私は自然と彼の左手を取っていた。
彼の左手は温かくて、大きい。
私の好きな手だ。

「!」

彼は右手で私を引き寄せる。
頭に触れる彼の手の感覚が力強くて。
突然のことに頭の中が真っ白になる。

「これから、ずっとか?」
「う、うん」
「お前、ずっと近くでって意味わかってんのか?」

彼のささやく声が耳元で聞こえて。
彼の吐息が耳にかかってすごくこそばゆくて。
けれどその感覚があまりにも。

「……うん」

あまりにも、心地よくて。

「これからも傍に……ずっといさせてくれる?」

離れたくないと思った。




「……え!?」

驚いた甲高い声。
私たちは驚きその声の主を見る。

「ふ、冬美さん!!!」

一瞬で襲い掛かる羞恥心。
私たちは咄嗟に離れて距離を取る。
互いで顔を見なくてもわかる。
私たちは今、顔が真っ赤だ。

「焦凍。ここは外だからもうちょっと場所を……」
「す、すいません!すみません!」

突然のハプニングに私は慌てふためいている。
彼は照れ臭いのだろう。ただ押し黙って視線をそらしている。

「でも、よかったね2人とも。やっと思いが伝わったね」
「え?」
「私もうれしいよ」

冬美さんは穏やかに笑う。

「お母さんにも教えてあげてね。きっと喜ぶから」
「……ああ」

そのおばさんにそっくりな私の好きな笑顔。
私は思わずつられて口角が上がっていくのを感じた。



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