「彩海!久しぶり!」
「みんな、おはよう〜!」
朝からいいこともあり、私の気分は最高潮だ。
自然と顔も綻び、みんなへの挨拶も明るくなる。
「七絵、おはよう!」
「あれ、彩海その髪飾り壊れたんじゃ……」
七絵は何かと察しがいい。
すぐに気づき、私を肘で小突きながらにやにやと笑っていた。
「よかったじゃん。轟くんからでしょ?」
「えへへ。まあね」
朝から惚気ることになるなんて、今までの私だったら考えられなかったのに。
間違いなく、今は幸せ絶頂期。
何が起きても、乗り越えられる気がする。
ニヤつく顔を抑えていると、朝のチャイムが鳴り響き担任の先生が教卓へ入ってきた。
クラス全員で朝の号令をかける。
「おはよう。今日はやっと全員揃ったな」
先生は私を見るなり、出席簿を黙々とつけた。
久しぶりのその光景に、日常が戻ったのだと実感する。
そんな些細なことさえも、今は嬉しかった。
「そうだ、奏出。お前、放課後に相澤先生のところに行け。いろいろと話があるらしいから」
けれどその一言で、私の幸せ気分は一気に吹っ飛んでいく。
目の前の席に座る七絵は笑いをこらえているようだ。
わずかに肩を震わせている光景が嫌に目につく。
「画色、顔がにやけてるぞー」
私は親友の椅子をばれない様に蹴ってみせた。
「彩海、食堂行こう。お腹減った」
「うん、行こう!」
午前の授業が終わり、昼休憩。
久しぶりにランチラッシュの手料理が食べられると思うと、お腹の虫が自然と動き出した。
「にしても彩海も大変だったけど、轟くんも大変よね。あんた達は何かと受難が待ち構えてるっていうか」
「確かにそうかも……。1-Aの子達は何かと敵(ヴィラン)に遭遇してるしね」
長い列に並びながら私は七絵と他愛もない話をする。
「奏出さん!」
すると突然、後ろから呼び止められた声に思わず振り返った。
「緑谷くん!」
「奏出さん!!学校に戻ったんですね!」
「お体はもう大丈夫なのですか!?」
緑谷くんは屈託のない真っ直ぐな笑顔を向けてくれる。
その横にいた飯田くんも私を心配してくれていたようだ。
隣に並ぶ女の子も、私に小さく会釈をしてくれている。
「うん。今日からね。緑谷くんに飯田くんも、身体は大丈夫?」
「はい!もう問題ありません!」
さすがは委員長。
ハキハキとした飯田くんの返答に思わず笑みがこぼれた。
「いいの?男の子と話してるところみたら、きっと轟くんすっ飛んでくるんじゃない?」
七絵は笑いながら私の脇腹を小突く。
「まさか。そんなわけないでしょ」
「わかんないよ?だってこの間もあんたのストーカーが原因だったでしょ?」
「いやいや、でも話してるのは焦ちゃんのクラスメイトだし……」
ないない、と左手を振ろうとした瞬間だった。
その手首が突然掴まれ、動きは静止される。
「轟くん?」
傍にいた女の子は驚いたように目を丸くしていた。
でもきっと、私はそれ以上に目が丸くなっているだろう。
「……なんだ。飯田と緑谷か」
彼は私の手首を離した。
そして何事もなかったかのようないつものポーカーフェイスに戻る。
本当に目の前にいるのは彼なのだろうか。
いつもならこんなの、絶対にありえない行動だ。
「ほら、私の言った通りじゃん」
七絵は私の耳元で囁いた。
そんな彼女も驚いているようで、額から冷や汗をかいている。
「しょ、焦ちゃん。よかったら一緒に並ぶ?」
「ああ」
私はこの空気をかき消すために、笑顔で彼を招き入れた。
隣に立ち並ぶ彼は、きょろきょろと周りを警戒しているように見える。
「彩海、今日も一緒に帰るぞ」
「え!?」
「なんだ?嫌なのか?」
「嫌じゃないけど、焦ちゃんから誘ってくれるなんて……」
「付き合ってるのに遠慮する必要ないだろ」
彼の発言に、後ろにいた3人が大きく噴き出す。
「轟くん、今なんて!?」
女の子が目を大きく見開いて、彼に問いただした。
「ああ。付き合ってんだ、俺達」
照れる素振りもなく、淡々と彼は言う。
女の子は目を輝かせてこちらを見つめ、小さい祝福の拍手をくれた。
緑谷くんと飯田くんは同じような表情を浮かべて棒立ち状態だ。
「彩海、放課後に迎えに行くから待ってろ」
「い、いいよ!相澤先生に用事があるから、それを済ませたら私が行く!」
「おお」
私は正気に返る。
気が付けば周りからたくさんの視線を浴びていることに気が付いた。
「聞いた……?」
「ヒーロー科の轟と奏出が、付き合った……!」
野次馬のその言葉に、周囲が一気に騒ぎ出す。
「ついにヒーロー科のマドンナも人の物になっちまった!」
「てかやばくね?体育祭の上位入賞者カップルじゃん!」
「こりゃいいネタになるぞ!」
口々に飛びかう、好き勝手な言葉に私は言葉を失う。
隣では親友が笑いをこらえながら、肩を小刻みに震わせていた。
envy
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