「彩海も気の毒だね。登校早々、噂の的になるなんてさ」
七絵は本日何回目かわからない笑い泣きの涙をティッシュで拭っていた。
「もう……明日休みたい」
「まあ、轟くんにとっては悪い虫が付かなくて好都合なんじゃない?」
「私に寄ってくる人たちなんていないから、悪い虫なんてつかないよ」
「へえ。ストーカー被害にあっといてよくそんなこと言えるね」
返す言葉もない。
「けど、別に広まらなかったとしても、轟くんのあの様子だったら大丈夫だったと思うけどね」
「え?」
「めっちゃ警戒してるじゃん。彩海のこと、心配なんだよ」
愛されてるね。
そう言って七絵は笑ってた。
「……そうなのかな」
私は1-Aの扉の前に立っていた。
途中寄った職員室にも相澤先生の姿はなかったから、きっとまだ教室にいるだろうと踏んだのだ。
ノックをし、恐る恐る扉を開けていく。
「奏出か。わざわざ悪いな」
最初に目に入ったのは相澤先生の姿だ。
よかった。他の生徒とかじゃなくて。
少し安堵のため息を漏らすと、そのまま先生のいる教卓まで歩み寄った。
「相澤先生。今よろしいでしょうか。私にお話があると伺ったのですが」
「ああ。お前には事前に伝えた方がいいと思ってな」
先生はがさがさと資料を漁り、1枚のプリントを私に差し出す。
「お前、今回事件に巻き込まれて実技の単位数が足りないらしいんだよ」
「え?」
「その補習として1年の林間合宿に参加することになった。俺の引率の元でな」
"林間合宿のお知らせ"
そう掲げられたプリントを思わず握りしめる。
「お前とは何かと縁があるな。よろしく頼むぞ」
先生は通りざまに私の肩を叩いて去っていく。
ドアが閉まると、それを合図に私の元へと1人の男子生徒が近づいてきた。
「奏出さん合宿来るんすか!?やべー!俺マジ楽しみ!!」
彼はいつぞやのナンパ少年……確か、上鳴くんだったっけ。
明るいテンションとは反して、私のテンションは駄々下がりだ。
「一緒に楽しみましょうね!奏出さん!じゃあよろしくっす!」
1年生の合宿に私が一緒に参加するなんて、夏休みはほぼ潰れたに等しいではないか。
高校2年生の夏は1度しかこないのに。
「奏出さん、えっと……大変だと思いますけど、頑張りましょう!」
気を使ってくれているのだろう。
緑谷くんが私を励まそうと、暖かい言葉をくれた。
「うん、ありがとう。よろしくね……」
「何落ち込んでんだよ」
私と緑谷くんの会話を遮るように、彼が現れる。
すると同時に周囲の視線が一気に集まった。
予想通り、私たちが付き合っていることは周知されているようだ。
「か、帰ろ!焦ちゃん!」
注目される羞恥心に勝てず、私は振り切るように急いで踵を返した。
「!?」
周りをあまり見ていなかったせいだ。
タイミングよく歩いてきた爆豪くんと鉢合わせになる。
あと数センチ。
唇が触れてしまいそうなほどの近距離に、爆豪くんの顔が見える。
「わっ!!」
咄嗟に体を立て直そうと試みる。
しかしバランスを崩し、私は大きく前へと倒れこんだ。
「いたた……」
爆豪くんを押し倒すような形で倒れてしまった。
大の字で倒れている爆豪くんに、私は馬乗りになっている。
「ご、ごめんなさい!」
急いで立ち上がろうと体を立て直した瞬間。
体が一気に引き上げられ、宙に浮く。
「悪い、爆豪」
数秒後。
私は彼に持ち上げられているということを理解した。
「!!」
彼はゆっくりと、優しく私を地面に降ろした。
あまりの恥ずかしさに口が震えて、声が上手く出せない。
「重かっただろ?」
訂正。
「……焦ちゃん」
「何だ?」
その一言に、恥ずかしさは一気に吹き飛んだ。
「バカー!!!」
感情が高ぶり、私はお得意の水龍で彼を威嚇する。
その騒ぎに駆けつけた相澤先生により、お説教を受けて帰る羽目になるのであった。
happening
prev|list|next
top