『彩海。人質はそこから十字路を2つ曲がった先の電信柱にいる。けど相澤先生の姿が見当たらないから、注意して』
「了解」

七絵の"個性"「ペイント」
絵に描いたものを具現化できる個性。
七絵自身が創造物の構成を理解していれば生物以外のものを具現化できる。
画力ではなく彼女の想像力によって完成度が左右されるところが玉に瑕だ。

そんな彼女が生み出した小型トランシーバー(どぎついショッキングピンク)で情報を共有している。
七絵は今頃、こっそり隠れて周囲を確認しているんだろう。
開始早々、人質の場所を特定するとは、さすが七絵だ。

『彩海。さっきのものは持ってるよね?』
「うん。一応」
『使うタイミングを間違えないでね。じゃないとただのガラクタも同然だから』
「は、はい」

彼女は何でも知っている。
まるで歩く図書館みたいだなんて思った時があった。
どんなに難しいことでも、彼女は当然かのように知っているし、私にわかりやすく教えてくれる。
そして、その知識量は彼女の努力の賜物だ。
本当、彼女には頭が上がらない。

『個性、使うの忘れてないよね?』
「うん。大丈夫だよ」

私は自分の周囲に数個の水泡を漂わせていた。
この水泡が壊れれば、相澤先生の個性によって個性を消されたことになる。
彼や七絵と違って、私の個性は生み出すのではなく、あくまでも"水を操ること"。
そのためいくら大量の大津波や噴水を作り上げたとしても先生の個性が発動した瞬間にはそれは壊れてしまう。
そういう意味でも、相澤先生の個性は私にとって最悪の相性だ。

「七絵。人質の2人を見つけたよ」

先導通りに突き進んでいくと、彼女の言う通り人質の2人を見つけることができた。
2人も電信柱に手錠で拘束されている。
私はすぐには飛び出さず、物陰から人質たちの様子を伺っている。

『彩海の個性は消えてる?』
「ううん。まだ消えてない」
『先生、きっと私たちが来るのを待ってるのね』
「……行くしかないってことだね」
『気を付けて。援護は任せて』

私は深呼吸をし、電信柱に向かって駆け出す。

「奏出さん!」

どうにか無事に人質のもとへとたどり着くことはできた。
私を目にして八百万さんは、小さく声を上げた。

「今手錠を取るね。ちょっと待って……」

拘束されている手錠に向けて手を伸ばした瞬間。
耳元で水泡が壊れる音が響く。

『彩海!!』
「!!」

突然襲い掛かった拳を両腕で受け止めると、反動で後ろに大きく突き飛ばされた。

「よく堪えたな。奏出」

相澤先生はゴーグル越しに私を見据える。

「奏出、お前の弱点である近距離戦線。そのか弱い腕力でどう戦う」
「どうって、決まってますよ」

突然、先生に向かって無数の矢が降り注ぐ。
相澤先生は間合いを取るように飛び、矢の降り注いだ方向を見た。
視線がそれた瞬間、私は水流を向ける。

「こうやって戦います」
「……なるほど」

再び無効化された私の個性。
先生に届くことなかった水流は地面に零れ落ち、大きな水たまりとなった。

「おもしろい!!」
「!!」

圧倒的な速さ。
気が付いた時にはもう、先生は私の後方に回っていた。
先生に羽交い絞めにされ、身動きを封じられてしまう。

「甘い。簡単に後ろを取られるな」
「……っ!!」

私を締め上げるその力はどんどん増していく。
あまりの力強さに息をうまく吸い込むことができない。
どうしよう。
どうすればいい。


「彩海!!!」

拘束されている彼が私の名前を呼ぶ。

「しょ……ちゃ……」

そうだ。負けるわけにはいかない。
それに今の私は。

「今日の天気は晴れのち大雨」

1人じゃないんだから。

「突然の大雨にご注意ください!!!」
「!?」

突如、真上から降りかかる大量の流水。
きっと七絵の個性で、水を生み出したんだ。
予想外の奇襲に、先生の腕の力が緩む。
この瞬間を、逃していけない。


"使うタイミングを間違えないでね"


うん。わかってる。
それはきっと、今だよね。


「!!!」

一瞬の隙を突き、先生の目に向かってフラッシュライトを放つ。
怯んだ瞬間、ありったけの火力で突き上げるほどの噴水を先生に向けて放った。

not alone

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