1つ歳下の、幼馴染の男の子。
ずっと思い続けてきた、初恋の相手。

そんな人と私は今日、キスをした。


『やっとキスまで進んだかー』
「やっとって!七絵、なんでそんな冷めた反応なわけ!?」
『いや。だってあんたたち進展しなさすぎだから。結婚するまでキスとかしない勢いかと思ったわ』
「け、結婚!?」

自分にとっては一世一代の大ニュースなのに。
電話越しの親友の声はなんだか異様に冷めているように聞こえる。

『初めてのキスの味は何の味だったー?』
「え!?」

いや、冷めてるんじゃない。
冷やかしているんだ。

「そんなのわかんないよ!」
『なんだー。つまんない』
「つまんないって……」

あれ?

『……彩海?おーい。どうした?』
「ごめん、なんでもない」
『そう?じゃあそろそろ切るよ。おやすみ』
「うん、おやすみ」

私、なにか大切なことを忘れているような気がする。

「……なんだろう」

ふと無意識に首をかしげる。
すると横にあった鏡に映った自分の姿が横目に入った。


"可愛い"

彼が言ってくれた言葉が再びよみがえる。
あんなこと言ってくれるなんて、今までなかったのに。
思い返すと自然と顔がにやけてしまう。

「また、髪結んでみようかな」

さっきまで何か思い出さなきゃって思っていたけど、もういいや。
なんだか今はとてもいい気分だ。
鼻歌を歌いながらリビングまで降りていくと、そこにはくつろいでいる父の姿があった。

「どうした、彩海。ずいぶんと上機嫌じゃねえか」
「別にそんなことないけど」

言われてぎくりとしたが、平然を装った。
さすがは父親。
私のことなんて大体察しが付くらしい。

「それよりお前、1年生の林間合宿にも参加するんだって?」

父はビールを喉に流し込みながら私を見た。
物言いたげなその視線に思わず身構えて言葉を待つ。
カン、と甲高い音を立てて、父はテーブルに缶を置いた。

「そこまで焦凍と夏休み過ごしたかったわけ?」
「なんでそうなるのよ!!!」
「ははっ。嘘嘘、冗談〜」

相変わらずのひょうきんな態度に、苛つきが隠せない。
私はそのまま部屋に戻ろうと思い、踵を返す。

「彩海。焦凍に伝えといてくれ」

その声に振り返ると、父はテレビを見ながら缶ビールに口を付けた。

「合宿の日、俺が学校まで車で送る」
「え!?」

缶ビールを飲み干したのだろう。
再び甲高い音がテーブルに響く。

「いいの?お父さん仕事なんじゃ……」
「いや、その日は休みなんだ。たまには俺も母校が見てみたくなってよ」

父はテレビ画面を見て大きな笑え声を上げた。
その態度に、興味の対象が私からテレビに移ったことがわかった。

おかしい。
父が自らあんなことを言いだすなんて。
絶対に何か裏があるはずだ。


「……早めに伝えといたほうがいいよね」

私は部屋に戻り、携帯電話とにらめあいっこを続けている。

「ど、どうしよう」

彼の連絡先を表示するまでは楽々できるのに。
いざ通話ボタンを押そうとすると、頭に今日の出来事がよぎるのだ。

「む、無理だよー!!!」

枕に顔を埋め、あまりの恥ずかしさに悶える。
ディスプレイに浮かぶ彼の名前を見るだけで胸が締め付けられた。

「……早く会いたいな」

どうしようもなく、込み上げてくる感情。
彼を好きという気持ち。
日増しにその思いはどんどん強く、濃いものになっていく。

彼からもらった赤いヘアピンを握りしめ、そのまま眠りに落ちた。


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