「おはよう、焦凍!」
「おはようございます」

彼は律儀に頭を下げる。
父は彼から荷物を受け取ると、トランクに詰め込んだ。

「おはよう、焦ちゃん」
「おはよう」

今日はいよいよ林間合宿の日だ。
父は約束通り、私と彼を乗せて雄英高校に向かって車を走らせている。

「林間合宿かー。いいなあ、俺も行きてえなあ」

バックミラー越しに父と目が合う。

「どうした彩海?そんな身構えて。焦凍といちゃつきたいなら、遠慮すんなよ!」
「違うわよ!」

父の言う通り、私は気が張っていた。
去年の合宿を思い出すと、どうしても気が休まらないのだ。

「焦凍。初めての林間合宿楽しんで来いよ」
「はい」
「いいかー、帰るまでが合宿だからな!ちなみに帰りは迎えに来ないぞ!」
「もう、お父さん静かにしてて!」

いつものようなやり取りをしていると、あっという間に学校に着いた。
何人かの生徒はすでに顔を揃えていた。

「よお、イレイザー!」

私は思わず目を見開く。
そこには父が、相澤先生に大きく手を振る姿があったからだ。
相澤先生は小さく頭を下げている。

「お久しぶりです、ポセイドンさん」
「相変わらず他人行儀だな!もっとフレンドリーに行こうぜ!な!」

父と相澤先生が顔見知りだったとは思わなかった。
しかしあまりにも馴れ馴れしい父の態度に、思わず顔が引きつってしまう。

「ポセイドンさん、娘さん引いてますよ」
「いいんだ!こいつはいつもこんなんだから!」

父は豪快な笑い声をあげた。
周りの生徒たちは父を見て目を丸くしている。

「ま、相澤先生。うちの娘をよろしく頼む。たくさんしごいてやってくれ」
「わっ」

頭に手を乗せられ、自然と父と合わせて頭を下げる形となった。

「もう!お父さん、離してよ!」
「なに照れてんだよ彩海。たまには俺にも父親らしいことをさせてくれよ」

一緒に頭を上げると、のらりくらりとした態度が一変した。
あまりの変わり様に、私は思わず息をのむ。

「彩海。この間の事件はお前の弱さが要因だ。お前が弱いから、焦凍や轟さん……いろんな人に迷惑をかけた」

真剣な眼差し。
その鋭い目つきに周りの生徒たちも一気に静まり返った。

「そんなお前に学校から好意でいい機会をもらったんだ。半端な出来で帰ってくんなよ」

父の言う通りだ。

「……はい」

私は自分にも言い聞かせる様に、返事をする。
父は私の目を見て納得したかのようにうなずいた。

「……よし!父親の仕事終わり!じゃああとはよろしくなイレイザー!あ、あとこれ俺からのお土産だ!」
「は、はあ」

父は半ば強引に相澤先生に何かの紙袋を押し付けて、颯爽と去って行った。
まるで嵐が通り過ぎたかのように、周りの生徒たちも呆気にとられている。

「えっと……なんだかすみません、相澤先生」
「相変わらずなんだな、ポセイドンさんは」
「先生が父と面識があったなんて知りませんでした」

相澤先生は何かを思い返しているかのように空を仰ぎ見た。

「奏出。1年の一番最初のヒーロー基礎学、覚えているか?」

先生の言葉に、思わず目を見開く。

「……はい」

まさか先生からその話が出るなんて思いもよらなかった。

「お前は俺が残した唯一の生徒だ。正直、思い入れがある」

先生は去年、私以外のクラスメイトを全員除籍した。
そのため2年生のヒーロー科は1クラスしか存在しない。

「期末試験の時、お前と画色を指名したのは轟達のことを考えてってとこもあったが…正直、お前の成長ぶりを見たかったっていう意味もある」
「先生……」
「期待してるぞ、奏出」

その激励の言葉に、思わず私は固い拳を作る。

「はい!」

力強い返事に、相澤先生の口元がわずかに動いた気がした。

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