私は1-Aのバスに同乗させてもらっている。
バスの中は1年生の和気藹々とした声で盛り上がっていた。
私は相澤先生の並びの席に腰掛けている。

「奏出さんのお父さんって、あのポセイドンだったんですね!」

突然、1人の女の子に話しかけられた。
ピンク色の肌をした、特徴的な女の子だ。

「私、芦戸未奈です!なんかイメージしてたのと違いました!ポセイドン!」
「俺も!もっとクールな感じかと思ってた!」

後ろの席から男の子が会話に混ざる様に声をあげる。
この聞き覚えのある声は、きっと上鳴君に違いない。

「はは……なんか恥ずかしいところを見せちゃってごめんね」
「恥ずかしくないですよ!親子愛って感じでした!」

そう言い、芦戸さんはまた隣の生徒との会話に戻った。
私がふとため息を吐くと、隣で相澤先生が面白そうにこちらを眺めている。

「さすがは2年生。他の奴らと同じように騒ぐ気にはなれないんだろ」
「まあ、気は抜けないですから」

去年の合宿の光景が蘇る。
なぜだか自然と冷や汗がにじみ出た。

「知らぬが仏ってな」

先生はクラスの子達を横目に見て呟く。
その殺伐とした態度にさえ、異常なほどに警戒してしまう。
バスに乗車してから一時間ほど経っただろうか。
きっと仕掛けてくるならもうすぐだ。
そう、自分の中の直感が言っている。

「……あれ?停まった?」

予感的中。
ついにきた。合宿の始まりが。

「よし、みんな降りろ」

先生の声を合図に、みんな順々にバスを降りて行った。
しかし降り立った場所には何もなく、豊かな森林が広がっているだけだ。

「奏出さん、大丈夫ですか?」

近くにいた緑谷君が私に声をかけてくれている。
きっと顔色が優れないのだろう。
心配そうな表情でこちらを見ている。

「大丈夫。ちょっと心の準備を……」
「?」

緑谷君は訳が分からなそうに首を傾げている。
すると突然、背後から勢いよく2人組のプロヒーローが現れた。

「今回お世話になるプロヒーロー プッシーキャッツのみなさんだ」

相澤先生が簡単に紹介をする。
それ補足するように、緑谷君が早口で詳しい解説を呟いた。
さすがは緑谷君。
ヒーローオタクは健在のようだ。

なんでも今回の課題はこの森を抜けて、先にある宿泊施設に向かっていくというものらしい。

「ああ、そうそう。今年は2年生もいるんだってね!どなた?」
「あ、はい。私です」

呼ばれて手を上げれば、ヒーローが企むような微笑みを浮かべた。

「ポセイドンさんの娘なんでしょう?全然似てないね!」
「は、はあ。そうでしょうか」
「どちらかといえば母親似ね!」

世間話をしていると、相澤先生が突然背後から現れる。

「ほら奏出。そんなポセイドンさんからの差し入れだ」
「え?」

先ほど父が先生に渡していた紙袋。
中を探れば、2つのリストバンドが入っていた。

「人魚姫!あなたはそれを付けること!」
「は、はあ……」

言われるがままに私は手首にバンドを付ける。
すると再び、プッシーキャッツは厭らしく笑う。

「差し入れの中に手紙が入ってたよ。娘をたくさんしごいてあげてって!」

その言葉に私は思わず顔が引きつった。
急いでバンドを外そうと試みるが、まるで嘘のようにぴくりとも動かない。

「気づいたときにはもう遅い!これはあなたの個性を制御する優れもの!人魚姫にはなれないし、水もうまく使えない!2年生なんだからこのぐらいのハンデ、朝飯前でしょ?ほら!」
「ちょっ……!きゃっ!」

勢いよく背中を押された反動で、森の中へと入りこむ。
すると突如、目の前に巨大な土の魔獣が姿を現した。

「さあ先輩!いいところ見せて頂戴!」

"半端な出来で帰ってくんなよ"
"期待してるぞ、奏出"

頭に浮かぶ、父や先生からの言葉。
なんでだろう。
胸の奥が熱くなる。
体を包み込むように両腕を組んだ。
そうしないと、体が震えだして抑えきれなかったから。

"レミも彩海ちゃんみたいなヒーローになりたいなあ"

レミちゃんの言葉が浮かぶ。
こんな私にも、憧れてくれる人がいる。

"ありがとう!"

笑顔で、感謝してくれる人がいる。

「……ありがとう。みんな」

たくさんの人たちが、私の背中を押してくれている。
その暖かな手が、私を強くしてくれる。

「奏出さん……笑ってる!」

目の前に立ちはだかる土の魔獣を突き破るように。
生み出した水龍が天に向けて大きく伸びていく。

「個性は制御しているはずなのに……なんて威力なのかしら!ねこねこねこ!!」

私は木々の間をすり抜けるように龍を操り、目的地の宿舎を目指して進んでいった。


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