楽しい登校時間はあっという間に終わってしまった。
しかし登校があれば下校もある。
彼に会うチャンスはまだ残っているのだ。
そう考えると憂鬱な新学期もとても爽快な気分で迎えられる。
はず、だったのに。
「悪いな奏出。お前がいつもより暇そうに見えたから」
「先生、それは立派な偏見です」
着いて早々、相澤先生の雑用を押し付けられてしまった。
どうやら先生は1年生を受け持つことになったらしく、その準備がまだ終わっていないらしい。
「助かるよ奏出。頼んだぞ」
押し付けるだけ押し付けて、先生は颯爽と去っていく。
新しいクラスまで運ぶように頼まれたプリントは結構な量があった。
朝からこんな重労働をすることになるなんて。
「でも……1-Aって、焦ちゃんのクラスだ」
雑用は嫌だけど、案外ついているかもしれない。
重たいプリントを抱えながら、私は1-Aの前に到着した。
「……開かない」
両手が塞がっている状態で、引き戸を開けるのは難しい。
けど早くプリントを運ばないと、自分も教室に戻れない。
辺りを見回してタイミングを伺う。
「……よっと」
普段はこんなこと、決してしないけど。
足を延ばしてドアにつま先をわずかにひっかける。
そのまま横に動かしていけば、ドアはわずかに開くはず。
「だらしねえな」
「え!?」
背後から響く突然の聞きなれた声。
振り向きもせずとも誰だかすぐにわかった。
「しょ、焦ちゃん?」
「他の奴に見られたら幻滅されんぞ」
私の背中越しに伸びる腕。
ドアが開かれたと同時に、目の前に広がる教室の風景。
一目散に目の前の教卓にこの重たいプリントを置きに向かえばいいのに。
「彩海?」
「……は、はい!」
彼の声でやっと動き出すことが出来た。
そして急に抱えていた腕が軽くなる。
「ここでいいのか?」
「……あり、がと」
何も言わずプリントを半分以上持ち、教卓に運ぶ彼。
私は目も見ずにお礼を言い、足早にその場を立ち去った。
「ずるい……」
2年生の教室に入る前。
私は我慢できず廊下の壁にもたれかかって息を整えた。
相変わらずの反応。
長年一緒に過ごしてきて、ずっと側で彼を見ているのに。
背中越しに触れた彼の感触や香りに、こんなにも過剰に反応してしまう。
「焦ちゃんはずるいよ」
幼馴染の1つ下の男の子。
轟焦凍に、私は恋をしている。
beating
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