「ここが部屋かあ!」
宿舎に入り、荷物を置きに女子部屋に向かっていた。
先ほどバスで話しかけてくれた芦田さんが元気よい声をあげている。
「意外と普通だね!」
「もっと広いかと思った!」
和気藹々と会話を織りなす女の子たち。
その光景を見守る様に後ろを少し遠慮がちに歩いていると、突然背中を叩かれる。
「奏出さん、何遠慮してるんですか?中入りましょうよ!」
朗らかな明るい笑顔。
この子は確か、いつも緑谷君と一緒にいる女の子だ。
「麗日お茶子です!よろしくお願いします!」
不思議と親近感が湧く、暖かな雰囲気を持つ子だ。
自然と緊張の糸が緩んでいく。
「ありがとう。よろしくね」
つられて口元が緩む。
私は荷物を置き、他のみんなと自己紹介を交えながら食堂へ向かった。
みんな話しやすくていい子たちみたいだ。
合宿の間、少しでも仲良くなれればいいな。
「頂きます!」
食堂の長机に並べられた夕食を一斉に食べ始める。
先ほどの女の子たちと話をしながら食べれたらいいな、なんて思っていたのもつかの間。
「彩海、ちゃんと食えよ」
「う、うん」
名簿順で並んでいる席順。
私が相澤先生に指定された席は、なぜか彼の隣だった。
目の前には寡黙なガタイのいい男の子。
その隣には体育祭の時、彼が予選で戦っていた男の子が座っている。
唯一先ほど喋れた耳郎さんが同じ長机に腰掛けてはいるが、話しかけるには少し距離があった。
「ねえ、あそこ……」
「本当だ!カップルが並んでる!」
隣の長机の1-Bの生徒たちからの視線が嫌というほど突き刺さる。
先ほどの爆豪君とのやり取りもあり、彼とどう接すればいいか正直解らなかった。
「人魚姫どうしたの?1日目でもう食欲なくなっちゃった?」
私の様子に気づいたのか、ピクシーボブがこちらに寄ってきた。
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「じゃあちゃんと食べなさい。でないと、明日からまた頑張れないよ?」
「は、はい」
遠慮がちに目の前のから揚げを1つ取ろうと箸を取る。
ゆっくりと手を前に伸ばすが、目当てのから揚げは忽然と姿を消していた。
「……あ?」
思わず声の主を見る。
悪びれもしない態度でその口元は何かを咀嚼していた。
「焦ちゃん?どうして私が取ろうとしたから揚げを食べてるの……?」
「お前が早く取らねえのが悪いんだろ」
「焦ちゃん……!!」
「ははは。本当、そういうところは変わらないね」
突然、ピクシーボブが笑い声をあげた。
まるで私たちを昔から知っているかのような物言い。
思わず2人して目を見合わせた。
「あなた達が小さい時、一回会ってるんだけど。覚えてない?」
「え?」
「ポセイドンさんの家でご飯をご馳走になったの。その時、調度幼馴染の男の子も一緒にご飯を食べてて……今と全く同じやり取りしてたよ」
ピクシーボブは懐かしそうに私たちを眺めていた。
その顔つきは穏やかで、とても優しげだ。
「君、あの時の男の子でしょ」
正直、ピクシーボブのことは覚えていない。
けれど幼い私がこんな打ち砕けたやり取りをするなんて、彼意外に思い当らなかった。
「昔と変わらずに過ごせる相手がいるって幸せなことだよ。いつまでも、君たちは君たちらしくいてね」
ピクシーボブの言葉が、胸の中に綺麗に収まっていく。
変に気負う必要なんてない。
このままでいいんだと言われているような気がして。
「焦ちゃん、おいしいね」
目の前の食事を口にすれば、自然と頬が綻んでいく。
「ああ」
目の前のから揚げを1つかじると、なんだか懐かしい味がした。
as always
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