「温泉だー!」
食事も終わり、入浴の時間。
大浴場にはみんなが浸かれるほどの大きさの温泉があった。
皆は歓喜の声をあげながら、次々に体を沈めていく。
「奏出さんどうしたんですか?一緒に入りましょうよ!」
麗日さんが私に手招きをする。
私は申し訳なさそうにみんなに申し出た。
「ごめんね、私髪留め忘れちゃって……。そのまま入っていいかな?」
温泉に入るなら、髪を束ねるのが常識。
優に腰まである私のロングヘアは、このままでは当然お湯に浸かってしまう。
これでは立派なマナー違反だ。
「別に気にしませんわ」
「それよりも早く暖まりましょう!」
「ごめんね。ありがとう!」
本当にいい子たちだなあ。
先輩としての面目が立たない。
「それに、私が造れば問題ありませんもの」
そう言い、八百万さんはあっという間に一つのヘアゴムを作り上げた。
「どうぞ。お使いください」
「す、すごい……!!」
私は感嘆の声を漏らした。
差し出されたそれを手に取るが、どこからどうみても立派なヘアゴムだ。
「八百万さんってすごい個性だね!ありがとう!」
私の言葉に、八百万さんは頬を赤く染めている。
照れるようにたじろぐその姿はなんだか可愛らしい。
「にしても……」
芦田さんはまじまじと私を見た。
あまりの熱視線に自然と身構えてしまう。
「奏出さん、前から思ってたけどスタイル抜群ですね!」
芦田さんの大きな声が浴室内に大きく響き渡る。
「ちょっと!急に何言いだすの!」
「だって本当のことじゃないですか。照れなくていいのにー!」
思いがけない言葉に、思わずヘアゴムを掛ける手を止めた。
なんだか恥ずかしくて身を隠すようにお湯に深く浸かる。
こんな私よりも、隣にいる八百万さんの方が抜群のスタイルだ。
褒めてもらえるのは嬉しいことだけど、この複雑な気持ちはなんだろうか。
「壁は越えるためにある!"Plus Ultra!!!"」
「え!?何?」
突然、仕切りの壁越しに校訓を掲げる声が響いてきた。
向こう側は確か男子風呂のはず。
一体なにが起こっているんだろう。
「出たな!」
周りの子達は一気に身構える。
「奏出さん、うちのクラスには性欲の権化がいるんですの!」
「え?な、なにそれ」
「とにかく見えない様に身を隠してください!」
つまり、男子生徒でこちらを覗こうとしている子がいるということだろう。
私は言われた通りに体を隠す。
しかし塀の上に小さな人影がぼんやりと見えた。
昼間のあの男の子だ。
「くそガキィィイイイ!!」
どうやら覗きに来た男の子を追い払ってくれたらしい。
悲痛な叫び声が徐々に遠くなっていった。
「洸太君、ありがとー!」
芦田さんの声に、洸太君はこちらを振り返る。
「!!」
何も隠しはせず、右手で親指を立てている芦田さんの姿。
女風呂の光景は、洸太君には刺激的だったのだろう。
男子風呂の方に洸太君はバランスを崩して落下していく。
「危ない!!」
「奏出さん!?」
気が付けば私は飛び出していた。
瞬時に人魚に姿を変え、温泉の水を使って波に乗る。
「洸太君!」
塀を飛び越え洸太君の下に水のクッションを作り出す。
すると真下には緑谷君が洸太君を受け止めようと飛び出した姿が見えた。
私は咄嗟に波を操り、ゆっくりと地面に着地する。
「洸太君!」
洸太君は一瞬目を見開き、私を見て意識を失った。
鼻血も出ているし、もしかしたらのぼせたのかもしれない。
「緑谷くん!洸太君を運んでくれる?」
「え、あ、はい!奏出さん……その……戻った方が……」
緑谷君に言われ、ふと我に返る。
冷静になり、恐る恐る周りを見回した。
そこには目を点にして私を見つめる1-Aの男の子たちの姿があった。
「きゃっ……!!」
髪が丁度胸元を隠すように下りていたのが救いだ。
私は咄嗟に胸元を両手で覆い隠した。
早くこの塀を乗り越えて女風呂に戻らないと。
「女神降臨!!奏出さんのオッパーイ!!!」
「ひっ!!」
突然飛びついてきた小さな男の子を、思わず鰭で勢いよく叩きつける。
その反動で、男の子は派手に床に転がって行った。
「ごめんなさい!!!」
気が動転して無我夢中で女風呂に戻った私。
恥ずかしさのあまり混乱し、気が付けばそのまま脱衣所へと急いで上り込んでいた。
accident
prev|list|next
top