「元気出してください、奏出さん!」
「とても勇敢でしたわ!」
「髪の毛で胸元は見えてなかっと思うわ」
脱衣所で落ち込み項垂れる私を、周りの女の子たちが励ましてくれていた。
本当、私は何をしてしまったのだろうか。
確かに裸を見られたことには違いないが、人魚化と髪のおかげで大半の場所は隠れていた。……と思う。
そうだったと思いたい、というのが本音ではあるけれど。
「みんなごめんね。ありがとう」
私は振り切るように床から立ち上がった。
その様子を見てみんなは安心したのか、道具を持って脱衣所を後にする。
「なにより、洸太君に大事が無くてよかったですね!」
麗日さんが元気よく笑いかけてくれる。
その笑顔に、心が少し癒されていく気がした。
「うん。怪我しちゃったらどうしようって思っちゃった」
「奏出さんの瞬発力すごいですね!」
笑いながら部屋までの道のりを歩く。
ああ、よかった。
みんながいい子たちのおかげで、私はどうにか持ち直すことが出来そうだ。
「轟さん?」
八百万さんが、不思議そうに彼の名を呟いた。
目の前には廊下の壁に背を預けて腕を組んでいる彼がいた。
俯かせていた顔が上がり、ゆっくりとこちらに焦点が合わさっていく。
「!!」
その凄まじい強面に、私は思わず肩をすくめた。
あまりの迫力に、周りの女の子たちも圧倒されて固まっている。
「彩海」
低く響く、その声。
嫌でも彼が怒りを露わにしていることがわかる。
私と目が合った瞬間、凄まじいスピードでこちらに進みだす。
「来い」
彼は力強く私の手首を握る。
強引に引かれるその腕に、私は大きく体が揺らいだ。
その反動で荷物が手からすり抜け、音を立てて廊下に落ちていく。
「麗日。悪いがこいつの荷物頼む」
「え、うん……」
彼はお構いなしに進んでいく。
あまりの力強さに、思わず顔を歪めてしまう。
「焦ちゃん……痛いよ!」
私の言葉など気にも留めず、彼はそのまま宿舎を出た。
人気のない裏庭まで来ると、私は壁に追い込まれる。
「お前、何してんだよ」
先ほどとは比べ物にならない程の低い声で彼は言った。
普段からは想像できないその姿。
まるで私の知らない人みたいだ。
「ごめん……なさい……」
あまりの怖さに、精一杯の振り絞るような声を出す。
凍てつくようなその目つきに、私は顔を伏せた。
「こっち見ろよ」
強引に顔を持ち上げらたと同時に、噛みつくようなキスが降りかかる。
この間とは全く違う、攻撃的なキス。
私は思わず彼の胸元を押すように抵抗をした。
唇が離れ、必然的に交わる私たちの視線。
その綺麗な瞳からは先ほどのような迫力は感じられない。
「焦ちゃん……お願い」
ぶっきら棒な態度も。
少し鈍感で、天然なところも。
切れ長な目つきも。
挙げたらキリがないほど、君の好きなところが浮かぶ。
「嫌いに……ならないで……」
私の願い。
「……!」
彼は目を見開く。
そして優しく腕の中へ抱き寄せてくれた。
彼の香りや体温に安堵し、そのまま身を委ねる。
「悪い。お前の裸を見られたのが…すげえ嫌で」
「やっぱり見えて……!?」
「いや。髪で隠れてた」
「よかった……」
その言葉に思わず胸をなでおろす。
彼は抱きしめる腕の力を少しだけ強めた。
「よくねえよ」
「ごめんなさい。洸太君が落ちていくのが見えたら自然と体が動いちゃって」
顔を上げれば、彼もこちらを覗き込んでいる。
自然と互いの額がぶつかり合い、見つめあう形になった。
「彩海」
彼が私の名前を呼ぶ。
触れ合った額が離れたと思うと、顔を少しだけ傾けた。
私はそれに応える様に、ゆっくりと目を閉じる。
柔らかな感触が唇を這っていく。
熱が帯びていく感覚を感じながら、ゆっくりと彼の背中に手を回した。
desire to monopolize
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