林間合宿2日目。
内容は各自の個性の強化。
ひたすらきついメニューをこなし、時刻は夕刻になっていた。

「奏出さん!こっちきてくださーい!」

体操着から私服に着替えた私たちは炊事場に集合していた。
みんなふらふらになりながらも、協力しながらカレー作りに取り組んでいる。
麗日さんが私を手招くように遠くから手を振っていた。

「ちょっと待って、人魚姫!」

しかし、突然ピクシーボブが私の行く手を遮った。

「あなたには素敵なプレゼントがあるの!後ろ向いて!」

言われるがままに素直に体の向きを変えれば、首元で何かが揺れ動いた。
覗き見れば、そこには何の変哲もない1つのネックレスが光っている。

「うん!似合うね!これもお父さんからだよ!」
「………、……!?」
「ねこねこねこ!何言ってるかさっぱり聞こえないよ!」

声を出しているつもりなのに、一向にそれが音になって現れない。
私は振り絞るようにお腹の底から声を張り上げた。

(なんですか、これ……!)

やっと出てきたのは、囁くほどの声。
耳元で話さないと聞こえない程の大きさだ。

「あんたのもう1つの特性、歌声を強化!頑張って声張り上げないと、みんなに伝わんないからね!夕食作りの間はずっとつけててね!」

今日の個性強化練習は終わったと思ったのに、私には続行するらしい。
大きく肩を落とすと、ピクシーボブが励ますように背中を押してくれた。
父は一体、幾つの物を今回持ってきたのだろうか。
明日からのことを思うと、更に先が思いやられる。

「奏出さん!こっちです!よかったら水が欲しいんですけど……」

麗日さんの元へ駆け寄ると遠慮がちに差し出される鍋。
どうやら水道の蛇口が壊れ、水が出せないらしい。
個性で水を集め、鍋の中を満たしていく。
そのまま周囲の食材も洗い流すと、周りから歓喜の声が上がった。

「奏出さんすごい!さすが人魚姫!」

麗日さんの無邪気な態度に、私は微笑みで返す。
すると麗日さんは不思議そうに首を傾げていた。

「声、どうしたんですか?」

私は彼女の耳元に近寄り、振り絞って声を出した。

(このネックレスのせいで、声がこのぐらいしか出ないの)
「あちゃー……大変やわあ」
(話しかけるときは、耳元で極力話すね)

麗日さんとの会話を遮るように、突然腕を引かれた。
驚いて顔を上げれば、そこには爆豪君が一方的に私の手を引いて歩いている。

「こっちにも水だせ」

爆豪君が私に頼んでくるなんて。
昨日の今日だったからか少し驚きながらも、言われるがままに水を操る。
すると手際よく、爆豪君が次々に食材を切り刻んで行った。
あまりの腕の良さに、思わず見とれてしまう。

「何見てんだ」

きっと照れ隠しなんだろう。
睨みつける爆豪君を見て、私は微笑んだ。

(上手だね、包丁の使い方)

耳元で囁けば、爆豪君は少し驚いた顔をした。

(ごめんね。今はこのネックレスのせいでこのぐらいしか声が出せなくて)
「あっそ」

大して気にも留めず、再び作業に取り掛かる爆豪君。
素直じゃないその態度がなんだかおかしくて、私は後ろから眺めていた。

「おい、奏出」

突然名前を呼ばれ、振り返る。

「その髪、どうした」

今日の髪型はポニーテール。
以前彼に褒められたことが嬉しくて、今日も1日この髪型で過ごしていたのだ。

(変かな?)

そういう意味を込めて両手で罰点を作り、首を傾げる。

「……別に、いいんじゃねーの」

予想外の返答に、私は驚き目を丸くする。

「爆豪が人を褒めたぞ!」
「かっちゃんがあんなこと言うなんて……!」
「うるせーぞ!デク死ねカス!」

爆豪君は周りに暴言を吐きながら、こちらに振り返ることなく黙々と作業をこなしていた。
ああ、そうか。
なんか少しだけ、爆豪君がどんな人かわかった気がする。

(ありがとう、爆豪君)

私は彼の耳元で囁く。

(初めて名前、呼んでくれたね)

まるでキツネにつままれたみたいな顔。
その表情に、私はまた微笑みを浮かべる。

彼の印象が少しいい方に変わった気がした。

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