これは、気のせいだろうか。
「ねえ2人とも。もう少しゆっくり行かない?」
ここに漂う、気まずい空気は。
「……」
私の声に無言で振り返る2人。
ああ、やっぱり気のせいではない。
彼らの表情は心なしか曇っているように見える。
「悪い。ちょっと速かったか」
「え?う、うん」
彼は私の横に付くようにスピードを落とす。
その様子を見て爆豪君は舌打ちをして歩速を上げた。
爆豪君と私たちの距離は徐々に開いていく。
違う。違うよ。
こうなってほしいんじゃなくて!
私の心の叫びなど聞こえるはずもなく。
横に並ぶ彼は不思議そうに私の顔を覗き込む。
「どうした?」
「いや、その……」
必死に取り繕う言葉を探す。
しかし私の言葉は、突然降りかかった彼の手によって遮られた。
「吸うな、彩海!」
「!?」
彼のその言葉と同時に、木陰から音を立てて何かが飛び出す。
どうやら脅かし役の男の子が急に道端に倒れこんだようだ。
「おい!」
彼は倒れた男の子の元へと駆け寄る。
解放された鼻先には、異様な匂いが掠めた。
「だめだ。意識を失ってる」
声掛けに応じない男の子を彼は背負う。
爆豪君も口元を手で覆いながら、表情を歪めていた。
「!!」
ふと辺りを見回せば、遠くの方で炎が立ち上がっている。
何かイレギュラーな事態が起きている。
それだけははっきりと解った。
「おい!!」
突然の声に、私は思わず目を見開いた。
爆豪君が少しだけ焦ったような表情で、私の腕を掴んでいる。
「お前……今あっちに行こうと思ったんじゃねえよな?」
「え!?」
「状況の解らねえこの状況で動くのは得策じゃねえ。ここに居ろ」
先ほどまで苛ついていたとは思えないほどの、冷静な判断。
まるで別人な爆豪君の言葉に、私は首を縦に振った。
「わかってりゃ、いい」
私のその態度に、爆豪君はゆっくりと手を離していく。
「……このガスも敵の仕業か。他の奴らが心配だが仕方ねえ。ゴール地点を避けて施設に向かうぞ」
「う、うん」
「しっかり口元覆っとけよ、彩海」
彼の声に引き戻され、私は頷いた。
爆豪君も眉間に皺を寄せながら口元を手で覆う。
「指図してんじゃね……」
私たちは思わず立ち止まる。
目の前の道には1人の男が座り込んでいた。
「おい、俺らの前、誰だった……!?」
爆豪君は言う。
ぼそぼそと呟く男の声に、私たちは息をのむ。
「常闇と……障子……!!」
立ち上がった男の足元に転がるのは、血まみれの一本の腕。
「仕事しなきゃ」
男が私たちを捉える。
その不気味な風貌に、額から冷や汗が伝った。
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