「君……奏出……彩海……?」

男が私の名前を呟く。
その不気味な雰囲気に、一瞬で背筋が凍りついた。

「いいね……人魚の肉……いい……」
「はっ!?」

降りかかる無数の刃。
やっとの思いで振り切ると、目の前に大氷壁が現れた。

「大丈夫か、彩海!」
「うん、なんとか」

男は口から伸びる無数の刃を辺り一面に突き刺している。
宙に項垂れる様に浮かぶその身体が、気味悪さを際立たせているように思えた。

(A組B組総員――……戦闘を許可する!)

突然、脳内に声が響き渡る。
これはマンダレイの個性、"テレパス"だ。

(敵の狙いの一つ判明――!!生徒の「かっちゃん」!!わかった!?「かっちゃん」!!)

私は思わず、隣の爆豪君を見る。
するとそれを遮るように、新たな刃が私たちに襲い掛かった。

(「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!!)

彼の氷壁がその刃を再び防ぐ。
爆豪君は間一髪のところで体を反らしていた

「不用意に突っ込むんじゃねえ。聞こえてたか!?おまえ、狙われてるってよ」

その言葉に、爆豪君の顔が一気にしかめっ面に変わった。

「かっちゃかっちゃうるっせんだよ頭ン中でえ……クソデクが何かしたなオイ。戦えっつったり戦うなっつったりよお〜〜〜ああ!?」

先ほどの冷静な彼はどこへ行ったのだろうか。
まるで百面相なその表情に私は思わず苦笑する。

「クッソどうでもいいんだよ!!」

彼の先ほどの忠告など無視して、爆豪君は飛び出す。
突然軌道を変えた刃が、爆豪君に向かってまっすぐ伸びた。

「おい……!!」
「ばか!無茶するなって言われたばっかでしょ!」

思わず声を荒げる。
爆豪君を守ろうとし、咄嗟に動いた体。
押し倒すような形になってしまい、私の下で大の字に横たわる爆豪君。
私の強気な態度に驚いたのか、目を見開いてこちらを見上げていた。

「惜しい……かすった……人魚の肉……」

太腿には一本の赤い線が滲んでいる。
それほど深い傷ではないが、じんわりと痛みが広がっていた。

「彩海、大丈夫か?!」
「うん。大丈夫」

私は立ち上がると、男をきつく睨んだ。
意識を集中させ、1筋の真っ直ぐな水流を男の刃に向ける。

「!!」

パキン、と音を立てて刃が砕け散る。
しかしそこからさらに分岐するように、次々に新たな刃が枝分かれして伸びた。

「彩海。お前も無理すんな」
「ごめん」

認めたくないが、非常に相性が悪い。
水泡で顔を覆おうとしても、きっとあの刃で交わされるのが関の山だ。

「近づけねえ!!クソ。最大火力でブッ飛ばすしか……」
「だめだ!」
「木イ燃えてもソッコー水と氷で覆え!!!」
「爆発はこっちの視界も塞がれる!仕留めきれなかったらどうなる!?手数も距離も向こうに分があんだぞ!」
「お前の歌声でなんとかしろ!」
「彩海の歌声が効くには、相手によって個人差がある!もしアイツが効きにくいやつだったら、彩海がガスを吸い込んでぶっ倒れんだろ!」

爆豪君と彼の激しい言い争いが続く。
今はそんなことしてる場合じゃないと叫びたくもなるが、打開策を考える方が先だ。

「いた!氷が見える。交戦中だ!」

突如聞こえてきた声。
そこには1-Aのクラスメイトの男の子が必死の形相で迫っていた。

「爆豪!轟!どちらか頼む――……光を!!!」

その叫び声とともに、巨大な黒い手が目の前の男を抑え込む。
その光景に私たちは思わず目を見張った。

「かっちゃん!」

クラスメイトに背負われた緑谷君が、爆豪君の名を呼んでいた。

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