突然姿を現した常闇君のダークシャドウが敵(ヴィラン)を撃退した。
暴走したダークシャドウは爆豪君と彼の個性によって静まり返る。
皆が落ち着いたところで、現在の状況を整理する。
敵の狙いである爆豪君を、私たちが無事に施設に送り届けることが今の課題となった。
「彩海、歩けるか?」
「うん。大丈夫」
彼は私を心配そうに覗き込む。
太腿には先ほどの傷から出血していたが、どうにか動くことは出来た。
「じゃあ、行こうか」
皆が施設の方向に向かって進みだす。
私はふと立ち上る炎へと視線を向けた。
"そういうところ……大嫌いだ"
頭の中に響く、私を否定する言葉。
過去に誰かが私にこう告げたんだ。
それは誰だったのだろう。
よく思い出せない。
そしてなにより、なぜ今ここで思い出すのだろう。
「……彩海?」
どうしてか、足が進まない。
異様な胸騒ぎが止まらない。
私の中の直感が騒ぎ出している。
「……私」
皆が私の声に、足を止めた。
不思議そうにこちらの様子を伺っている。
「そっちに行けない」
「ど、どうしたんですか?」
私の発言に、緑谷君が心配そうな声をあげた。
「ごめんなさい。うまく言えないの。でも……」
ほら、今もだ。
どんどん大きくなる胸騒ぎ。
加速していく鼓動に、胸が痛くなる。
この異常なほどの切迫感は、きっと。
「私が行くべき場所は、あそこだと思う」
遠くで未だに立ち上る炎のせいだ。
「何言ってんだ、テメェ」
爆豪君が眉間に皺を寄せて私を睨む。
その隣の彼も、少しだけ怒ったようにこちらを見ていた。
「敵が何人いるかもわからねえ。そんな中、お前1人で行くにはリスクが高すぎる」
「ごめん。すごい無茶なこと言ってるってのもわかってる。でも……」
苦しい胸騒ぎを落ち着かせるため、胸元を抑えた。
真っ直ぐに、彼を見据える。
「あの炎は私じゃないと、きっと消せない」
私の言葉に、彼は表情を曇らせた。
「俺の氷結じゃ無理って言いたいのか?」
「違う、そうじゃないの。でも……きっと今、あそこに行かないと私は後悔する」
真剣な私の眼差しに、彼は目を見開いた。
他の子達も同じように私を見据えている。
「……わかった。でも、絶対無理はすんな。敵と遭遇したら交戦せず逃げろ」
「うん」
彼はゆっくりと私に近づき、赤いヘアピンを外した。
「焦ちゃん……?」
「これは預かっておく。だから…必ず取りに来い」
「うん」
彼の手がそっと私の髪から離れていく。
彼の綺麗な瞳をみて、私は力強く頷いた。
「奏出!!」
荒々しい声に、踵を返そうとした体を止める。
声の主は苛立った表情で私をみていた。
「テメェ、調子こいてんなよ!1人で行くとか、どんだけ天狗になってんだ!あぁ!?」
「かっちゃん!そんな言い方……」
「うるせえクソデク!黙ってろ!!」
この合宿で、爆豪君の印象が大きく変わった。
きっと、違うよね。
君は私を心配してくれている。
素直じゃないから、こういう形でしか伝えられないだけなんだ。
「2回目だね」
私は思わず言葉を零した。
こんな切迫した状況でこんなこと、今言うべきじゃないのかもしれないけど。
「また、ちゃんと私の名前を呼んでくれた」
本当は迫りくる恐怖心に押しつぶされそうだった。
でも、爆豪君のおかげで少し和らいだ気がする。
目を丸くする、爆豪君。
その表情を見ると、自然と口元が綻んだ。
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