「もしかして、傘忘れちゃったの?」
雨が降る鈍色の空。
それを眺めて立ち尽くしている人物がいた。
「よかったら入ってく?たぶん、当分やまないと思うし」
私の提案に肯定したのか。
その人物は私の傘の柄を静かに取った。
私達はゆっくりと肩を並べて歩いていく。
これは昔の記憶だろうか。
私の妄想なのだろうか。
こんなにはっきりと鮮明に光景が頭に浮かんでいるのに。
隣を歩く人物の顔にはまるでフィルターがかかったように、輪郭さえも判断できない。
「わっ……!」
持っていた傘の柄が自然と傾き、落ちそうになる。
咄嗟にそれを防ごうと私は手を伸ばした。
自然と重なる私たちの手。
その感触に驚いたのか、隣の人物は足の動きを止めて私を見た。
「彩海ってさ、優しいよな」
今にも消えそうな程、弱弱しい声。
「そういうところ……大嫌いだ」
傘がゆっくりと地面に向かって落ちていく。
頬に降りかかる雨の雫。
唇には柔らかい、熱の持った感触が広がっていた。
「……っ!!」
腹部に走った鈍痛により、一気に現実へと引き戻される。
あまりの痛みに耐えきれず、荼毘にもたれかかるように体が崩れ落ちた。
その隙を見逃さず、荼毘は私を引き後ろから抱え込むように拘束する。
「テメェ!!何してんだ!!!」
咳き込みながら顔を上げれば、凄まじい剣幕の彼が目に入った。
しかし、荼毘は私を抱えたまま後方に現れたワープゲートを後ろ手に潜っていった。
私と彼の距離は、徐々に開いていく。
「焦ちゃん……!!」
隣にいたエンターテイナーに、どこからか放たれたビームが直撃した。
その拍子に、爆豪君と常闇君が拘束されているであろう小さな玉が宙を舞う。
勢いよく手を伸ばす障子君と彼。
彼の手があと数センチで届く。
それほどの僅差の距離。
パシン、と。
荼毘が横取りをするようにそれを奪った。
彼の手は空振り、空を切る音だけが響く。
「哀しいなあ、轟焦凍」
荼毘の声が響く。
「待って……離して……」
「諦めろ、奏出彩海」
「いや……いやだ……!」
必死に手を伸ばす。
彼の手が私に向けられている。
「焦ちゃん!!!!」
「彩海!!!!!」
私の悲痛の叫びも空しく。
無情にも、目の前が暗く閉ざされた。
拘束された腕の力が先ほどよりも強まっていく。
「……どうして」
堪えていた涙が、頬を伝う。
「どうして、こんなことするの……?」
隣では爆豪君が驚いた表情で私を見上げている。
「……お前が嫌いだからだよ」
荼毘はぽつりと呟いた。
refuse
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