「彩海、本当の人魚ってどんなものか知ってるか?」

聞き覚えのある懐かしい声。
またあの声だ。
いつも私の中で語り掛けるこの声は誰なんだろう。

「本当の人魚?」
「その口ぶりじゃ知らねえな。本当の人魚ってのはな……」

これは幼いころの記憶。
ああ、また。
肝心の人物はもやがかかったかのように、はっきりとした姿として現れない。

「歌声を聴いたやつを不幸にしちまうんだぜ」

私はこの人物を慕っていたはずだ。
だからこそ、この人の言葉は私にとってはとても特別なもので。

「彩海の歌をたくさん聞いているから、俺はきっと不幸なんだ」

誰が零す言葉よりも鋭い、刃物のようにも感じたんだ。





私は気を失っていたようだ。
目を覚ますと、薄暗いバーのような場所にいた。
布で塞がれる口。縛られている両手。
拘束されているのだと理解するのに時間はかからなかった。

「やっぱ綺麗な子はなにやっても絵になるな。なんかそそるわ」
「きもいです。スピナーさん」
「はあ!?」
「にしてもさすがに女の子の口まで封じちゃうなんてかわいそうじゃない?」
「だめだ。こいつは歌声で人の感情を操る個性を持ってる。塞いどかねえと厄介だ」

敵連合のやつらは好き勝手に話始めている。
隣では爆豪君が椅子に座り、私よりもさらに厳重な拘束を施されていた。

「まあでも……こいつはスカウトの対象じゃない」

敵連合の主犯格――死柄木弔。
私はせめてもの抵抗できつく睨み付けた。

「表情をみてりゃわかる。こいつはこっち側に入る気なんてさらさらない」
「っ!!」

髪を突然引き上げられ、反射的に歪む顏。
その様子を見て、死柄木は怪しい笑みを浮かべる。

「確かお前の父親ってポセイドンだったよなあ?」
「……」
「あの偽善者ヒーローにお前が犯されてる動画を送り付けたら…どんな反応すると思う?」
「!!!」

突然、死柄木は私を床に大きく押し倒す。

「あらやだあ!こんなところではしたないわよう!」
「私こういうの見たくないですー」
「おい、ずるいぞ死柄木!!」

必死にもがくが、死柄木は微動だにしない。

「無駄だって。所詮は男と女なんだからさ」
「!!!」
「おい!死柄木!」

私は瞬時に死柄木の頭上に大量の水を作り出した。
水で拘束してしまえばこちらの勝ちだ。

「だから、無駄だって」

パン。
甲高い音が響き渡る。
それと同時に腹部に強い鈍痛が走り、私は大きくむせ込んだ。

「荼毘の言った通りだ。こいつ、結構厄介だな」

やられた。
私が個性を使えるかどうか見極めるため、わざと挑発してきたんだ。
それにも気づけなかったなんて。
浅はかな自分の行動に、情けなくなってくる。

「黒霧。こいつを倉庫に運ぶ。ゲートを開け」
「誰が連れてくんだ?」
「決まってんだろ。こいつの個性を相殺できるのは荼毘しかいない」

荼毘はゆっくりと私に近づき、軽々と担ぎ上げる。
腹部の痛みが治まらず、私はされるがままだ。

「お前が勝手に連れてきたんだ。個性使えなくなるほど弱ったら、お前1人でいいから戻ってこい」
「わかった」

朦朧とする意識の中、椅子に拘束されている爆豪君と目が合った。
その瞳は、別れ際の彼の瞳となんだか似ている気がして。

なぜだか、涙が自然と溢れてきた。

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