「お前ばかだなあ」
先ほどのアジトから別の場所に連れられた私。
目の前に立ちはだかる荼毘は、ゆっくりと私の口の拘束を解いた。
「ただ大人しくしとけばよかったのに、あんな挑発に乗っちまうなんて」
「早く解いて。私を返して」
「素直にそんなことするわけねえだろ。お前ってそんなに頭悪いわけ?」
突然、強引に唇が塞がれる。
荼毘の舌が私の口内に入り込んできた。
初めての感覚に戸惑い、必死に抵抗をしようともがく。
「……ってぇ」
荼毘が私から離れた。
口内には鉄の味がじんわりと広がる。
「舌に噛みつくなんて、お前は人魚じゃなくて犬かよ」
目の前の人物を睨み付けて考えた。
私の個性を完璧なまでに相殺する、荼毘の個性。
きっと抗ったところで、私が先に力尽きてしまうだろう。
「どうして私を連れてきたの?」
死柄木は言った。
スカウト対象ではないと。
荼毘の独断で私を連れてきたのだと。
「どうしてだと思う?」
質問を質問で返される。
挑発的なその態度に、自然と眉間に力が入った。
「お前が嫌いだからだよ」
無理やり持ち上げられる顎。
強引に合わさる唇。
反射的に力強く口を閉ざした反動で私は息をこらえた。
ようやく距離が離れ、反動で大量の酸素を吸い込む。
「じゃあ……キスしないでよ」
頭によぎるのは、彼の顔だ。
愛しい、私の大好きな人。
離れ間際の彼の顔が、頭によぎる。
「嫌いだからしてんだよ」
再び持ち上げられる顎。
至近距離で私たちは睨み合う。
「あなたは誰なの?」
なぜだかはわからない。
荼毘の瞳を見ている、それだけなのに。
「私たち……前にも会っているんでしょ?」
なぜだか涙が溢れそうになる。
「……どうやらあいつの個性も完璧じゃねえみたいだな」
「どういう、」
意味なの?
そう告げたかった唇は再び塞がれる。
口を閉じたり食いしばれないよう、両頬を強く押さえつけられた。
入り込んでいる舌を拒むことはできず、唾液のまじりあう音が耳に響いてくる。
息をうまく吸い込むことができない。
自然と涙ぐみ視界がゆがむ。
「どう、して……」
解放された私は乱れた呼吸を整えながら、必死に言葉を紡ぐ。
「そんなに……悲しそう、なの……?」
そんな言葉を遮るように、咄嗟に一枚のハンカチで口が塞がれる。
鼻に突きさすような香り。
一気に目の前がゆがんでいく。
強い眠気に抗うことができない。
体から力が抜け、荼毘の腕の中へと倒れ込んでいく。
「そういうところが嫌いなんだ……彩海」
意識が朦朧とする中。
荼毘が私の名前を呼んだ気がした。
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