あれから、どのくらいの時間が経ったのだろう。

朦朧とする頭で必死に考える。
鼻先にはまだ強い刺激臭の名残があった。

まるで頭を強く打ち付けたのかというほどの、強い頭痛。
個性を使うことはおろか、体を起こすこともままならないほど力がうまく入らない。
先ほど嗅がされた薬の影響だろう。

意識を失う前とは変わり、目元を布で覆われている。
まるで張りつけられるかのような形で両手首はどこかに固く固定されていた。
先ほどよりも明らかに頑丈な拘束。
これでは体が動いたとしても、逃げることは困難だ。

私は今、この状況の打開策を考えなければならない。


"半端な出来で帰ってくんなよ"
"期待してるぞ、奏出"


ふと、父や相澤先生の言葉が浮かんだ。
何をやっているんだろう、私。
何にも成長していない。
何にも変わっていない。
また、みんなを巻き込んでいる。

私が弱いせいで。


「ばかみたい。」

空しいつぶやき。
大きな空間の中で私の声が木霊する。


「―――――………」


気が付けば、思わずメロディーを口ずさんでいた。
この歌は、彼が好きと言ってくれた歌だ。

初めて抱き寄せられた。
初めて手をつないだ。
初めて思いが伝わった。
彼が何度も私を助けてくれた。

彼との幸せな思い出が、次々に頭をよぎっていく。


「ごめんね、焦ちゃん」


大好きなのに。
私は彼以外の人とキスをした。
幸せな記憶を荒々しく塗りつぶすかのような。
強引な感覚が、まだ体に残ってる。


「――――――……」


おかしいな。
穏やかなメロディーが心も体も、癒していくはずなのに。
どうして。

「――――――――………っ」

どうして。

「――――――………っ」


涙が止まらないのだろう。


「!!!!!」


突然、轟音と地響きが響き渡った。
建物が崩れているのか。
視界が閉ざされている今、何が起きているのかはわからない。

「おい、誰かいるぞ!」

その声に思わず身構える。

もし、これが敵だったら――。
そんな不安な、悲観的な仮定が頭に浮かんだ。
今の状態では成す術もなくやられてしまう。
大人数と思われる足音がこちらに向かって近づいてくる。
その音は私の不安を煽っていく。

「誰……?」

その不安に負けないように。
そっと、囁くように声を出した。

「彩海!!」

それに応える様に。
聞きなれた声が私の耳に届く。

「お父……さん……?」

間違いない。
これは父だ。
駆け寄った音が近くまで聞こえたと思うと、すぐさま拘束を解いてくれた。
解放された視界には、真っ先に心配そうな父の顔が目に入る。

「彩海……!!!」

初めて見た、父の表情。
力強い抱擁を受け、安堵したのか。
自然と涙が溢れてくる。

「お父さん、ごめんなさい……私……」
「いい。何も言うな」

父は私を抱きしめる力をさらに強める。

「無事でいてくれた……それだけで十分だ」

初めて聞く父の振り絞るような声に。

「ごめんね……」

私はただ、謝ることしかできなかった。

lamentation

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