「彩海、立てるか?」

父に捕まり、ゆっくりと立ち上がる。
薬がまだ回っていて、足が震えてしまいうまく立っていることができない。

「ごめんなさい。敵に変な薬嗅がされて…そこからうまく力が入らない」
「しょうがねえな」

父は軽々と私を抱きかかえる。
傍にいたほかのヒーローたちは倉庫に格納されていた脳無の制圧していた。

「お父さん、爆豪君は……」
「大丈夫だ。あっちにはオールマイトやエンデヴァ―さんが行ってる」
「そっか」
「ポセイドン。娘さんも無事か」
「ああ、ギャングオルカ。どうにかな」

父の笑顔をみて、思わず安堵のため息を漏れた。
よかった。
これでもう助かるんだ。
やっと解放されるんだ。

「……彩海?」

けれどふいに、尋常じゃない胸騒ぎが私を襲う。
冷汗が湧き出る。
これで助かる?解放される?
向こうにはオールマイトもいる。
だから大丈夫と安心していいの?

いや、違う。
直感が言っている。

「お父さん、早く逃げよう……」
「彩海?」
「早く!!!」

途端に、周囲の空気が変わった。

「止まれ、動くな」

薄暗い奥の方から、姿は見えないが誰かが迫り来ている。
何を言っているか、声は小さくて全く聞こえない。

胸騒ぎがどんどん激しくなる。
うまく息が吸えない。

「お父さん!!!」

気づいた時には、もう遅かった。





「お父……さん……」

突然襲った突風により、ヒーローたちは一気に遠くへ身を投げうたれた。
私を守るように覆いかぶさっている父の体中は、傷だらけだ。

「お父さん……起きて……ねえ……」

私の声かけに応じない。
力なくぐったりと倒れているその姿は、初めて見る父の姿だった。

「いや、だよ……お父さん……!!!」

お願い。
いつもみたいにおちゃらけて見せてよ。
目を覚まして、私をからかってよ。

「お父さん!!!」

泣き叫ぶような私の声にも父は答えない。
私はゆっくりと息を吸い、心を落ち着かせるように長く息をついた。

「―――――………」

私の歌声が、静かに、大きく響き渡る。
ただでさえ拙いのに、薬の影響で更にうまくコントロールできない。
きっと今、広範囲に私の声は響いているんだろう。

けれど、いい。
父が回復してくれれば、それでいい。

「彩海……やめろ……」
「お父さん!!」

父はかすれるような声で私の名前を呼んだ。
よかった。少しは個性が使えているようだ。
私はもう一度、神経を研ぎ澄ます。

「待ってて。もっと回復させてあげ……」
「いい個性だね」

ピシャリと。
まるで冷水をかぶったかのように。
私の体が一気に凍り付いた。

「君は弔に合っている」

声が出ない。
息が止まったかのような錯覚を覚える。
まるで首を絞められているようだ。
望んでもないのに。
相手の個性なのか、ものすごい勢いで体が勝手に引き寄せられていく。
個性が解除されたと同時に、相手の足元に大きく崩れ落ちた。

「水を操る、人を翻弄……いや、自律神経を刺激、か。いい個性だね」
「あ……」

気が付けば涙が溢れ出ていた。
体は勝手に震え、恐怖に慄いている。
自分の浅はかな、軽率な行動を後悔する間もない。
殺される。
そう、直感的に思った。

「ゲッホ!!」

突然聞こえたむせ込む声に、ふと我に返る。
そこに姿を現したのは、爆豪君だった。
続いてほかの敵連合の面々も次々に顔を揃えていく。
何が起こっているのか全く分からない。

「全て返してもらうぞ オール・フォー・ワン!!」

突風が吹き、次に姿を現したのはオールマイトだ。
私は反動で大きく体を投げうたれる。

「奏出!」
「爆豪君!」

吹き飛ばされた私を、爆豪君が受け止めてくれている。
ゆっくりと体を起こすと、2人でオールマイトの方を見据えた。
目の前で繰り広げられる乱闘は、現実離れしているほどに凄まじい威力だ。

「ここは逃げろ弔。その子たちを連れて」

その言葉を合図に、敵連合は私と爆豪君に標的を移す。
危機的状況。
個性が使えないなどと嘆いている暇はない。

「私が囮になる。爆豪君はその隙に逃げて」
「ああ!?」
「情けないけど私は今立つこともできない。どうにか少しだけ個性が使えるってぐらい。だから……!!」

突然、体中を大量の水が包み込む。
驚き目を見開く私を見て、爆豪君は好戦的な目をして笑った。

「使えんじゃねえか、クソ野郎」
「ちが……これは……」
「なんでもいい!お前だけでも先に行け!!」

爆豪君は私を抱き、思い切り上へと放るように投げた。
その勢いに合わせて、体を包み込む水が滝のように押し寄せてくる。
これは間違いない。

「お父さん!!」

父の個性だ。

「頼んだぞ……」

体が投げうたれていく途中、うなだれる父の姿が目に入った。
その口元は、綺麗な弧を描いているように見えた。

arc

prevlistnext
top