隣に建つ近所でもひときわ目立つ立派なお屋敷。
そこはNo.2ヒーロー エンデヴァーこと、轟炎司の豪邸だった。

「焦凍ちゃん、遊ぼう!」
「……彩海」

轟家には4人の兄弟がいた。
その中でも一番年が近い1つ違いの男の子は、幼い頃から厳しい教育を受けていた。
いつもこちらを見つめる彼の目はとても悲しそうに見えて、なんだかほっとけなくて。
わずかな時間の合間を縫って、彼に会いに行っていた。

「今はそんな気分じゃない」
「じゃあどうしたらそんな気分になる?」
「知らねえよ」

彼は決まって、私の誘いを不愛想に突っぱねる。
これがいつもの、決まりのやり取り。

「じゃあ、私が歌をうたってあげるよ」

そして、その傍らには。

「あら、いいわね」

穏やかな優しい微笑みを浮かべて私たちを見守ってくれる、1人の女性。

「おばさん。彩海ちゃんの歌が大好きよ」

焦ちゃんのお母さん。
その優しい笑顔が大好きだった。





学校を終え、放課後。
バスに揺られながら、手慣れた手つきで降車ボタンを押す。
常連の花屋に寄り、可愛らしい花束を受け取って目的地へと向かう。

深呼吸を1回。ノックを2回。
いつものやり取りをこなし、扉を開いた。

「彩海ちゃん。今日もお願いしていいかしら」

病院の一室の窓辺。
椅子に腰かけて佇む女性に、今日も花束を手渡す。

「……うん。いいよ」

私は歌い続ける。

「おばさん。彩海ちゃんの歌が大好きよ」

いつか、あの大好きな笑顔をまた見れる日が来ると信じて。



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