警察の事情聴取も終わり、私は自宅にいた。
1つだけ私は嘘をついてしまった。

"本当に知らないんだね?荼毘のことは"

そう問われた問いに、私は何も答えることが出来なかった。
確証がない自分の既視感をうまく説明できなくて。
ただゆっくりと首を縦に振ってしまった。

「彩海」

自室の窓辺に膝を抱えて過ごしていると、母が部屋に入ってきた。
私が振り向くと、母の目じりがゆっくりと下がった。

「焦凍君来てるわよ」
「焦ちゃん……?」

母と入れ替わるように、彼が部屋に入る。
私はそのまま動かず、彼をただ見つめていた。

「お前、そこ好きだよな」
「うん。好き」

ベッドの上とかじゃなくて。
窓辺のこの狭い空間に縮こまって座るのが好きだ。
小さいころから変わらない私の特等席。
彼は少しだけ笑って私に近づく。

「ちょ、焦ちゃ……!」

軽々と私を抱き上げる。
そしてゆっくりとベッドの上に私を降ろした。
彼はその隣に並ぶように腰掛ける。

「……焦ちゃん」

私が話しかけているのに、彼は黙ったままだ。
左肩から伝わる、彼の体温。

不思議だ。
彼と触れると心が落ち着いていく。
気負いのない、自然体な自分が出てくる。

もっと触れたいと思う。

ゆっくりと頭を彼の肩に預けた。
彼もそれにこたえるように、頭を預ける。
言葉なんていらない。
私たちは一緒にいるだけでいいんだと。
そう、思える自分がいた。

「彩海」

彼の声が耳にだけでなく、体越しに振動としても伝わってくる。
その感覚がなんだかとても心地よくて。
私はゆっくりと瞼を閉じる。

「なに?」

目を閉じているからわからないけれど。
きっと彼も今、同じように瞼を閉じていて。
私という存在を噛みしめている。
なんとなく、そんな気がした。

「俺はお前がいればいい」

すごいよね、焦ちゃん。
たくさんの人たちがいるこの世界で私たちは出会って。
同じ時間をたくさん共有して。
同じ感情をこうして共有している。
それってきっと。

「私も」

とても幸せなことだ。

瞼を上げる。
彼は私の顔を覗き込んでいた。

彼は私との間合いをゆっくりと埋めていく。
私もそれに応える様にそっと彼に近づく。
互いの吐息がかかるほどの距離。
2人でゆっくりと目を閉じる。


好きな人の唇の熱を感じる。
それはとても暖かくて。

荼毘と何度も交わしたキスの感覚。
自分の中で消えない負の感情。
そんな体中の毒を抜いていくような。
汚れた私を綺麗に洗い流してくれるような。
そんな風に思えて。


「彩海」


彼が私の名前を呼ぶほど。
私の心は満たされていく。


「焦……凍」


私たちは繰り返し名前を呼び合い、何度も唇を重ねる。
彼という存在にのめり込んでいく。
優しく力強いキスに、酔いしれていった。

melt

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