「焦ちゃん、次どこ行く?」

あれから数時間後。
結構な店舗数を回った私達。
私は予定していた物を全て買い揃えたので、今は彼の行くところに付き添っている最中だ。

「お前はどこか行きたいところあるか?」

どうやら先ほどの店ですべての物が揃ったようだ。

「じゃああそこ寄ろう!」

私は繋いだ手を引いて進む。
様々なジャンルの雑貨が置かれている有名バラエティショップ。
買わなくても見ているだけで楽しめるお店だ。

「焦ちゃん、伊達メガネがあるよ!」

一番手前にあった眼鏡を取り、彼にかけてみる。
少し嫌そうに表情を歪めた後、鏡に映る自分を見てぽつりと呟いた。

「飯田みてえ」
「確かに、飯田君の眼鏡とちょっと似てるね」

彼の口から友達の名前が出る。
昔の彼からしたら想像もつかない事。
それがなんだか嬉しくて、思わず頬が緩んだ。

「笑うほどおかしいかよ」
「え?おかしくないよ?」
「お前もかけてみろ」
「わっ」

半ば無理やりにかけられた眼鏡。
彼は私の顔を見て、少しだけこらえる様に口角を上げた。

「焦ちゃんだって笑ってるじゃん!」
「悪い」

ゆっくりと眼鏡が外されていく。
再び私達は指を絡める様にして繋ぎ合った。

ちょっと前までずっと憧れてた、まるで少女漫画のようなスキンシップ。
そんな夢のような事を幼い頃から思い続けた彼と交わしている。
照れくささもあるけれど、嬉しさが勝っていく。

幸せだ。
こんな時間をずっと過ごせればいいのに。

「もしかして、雄英の轟さんと奏出さんですか?」

突然声をかけられ2人で立ち止まる。
話しかけた女性の店員さんは私達を見て、本物だ!なんて呟いていた。

「お2人は付き合ってるんですね!お似合いです!!」

お似合い。
その言葉に思わず頬が熱くなった。
店員さんは明るい笑顔で会話を続ける。

「ちょっと見ていきませんか?カップルさんにお勧めしてるんですよ!」

店員さんが示すガラスケースを2人で覗き込む。
そこにはシンプルなデザインのカジュアルなペアウォッチが飾られていた。

「焦ちゃん、似合いそうだね」
「そうか?」
「ちょっと付けてみませんか?」

私達の返事を聞くまでもなく、店員さんは早々とペアウォッチをケースから取り出す。
そして私たちの左手首にあっという間につけてくれた。

「うん!お似合いです!」

彼の時計は文字盤が大きくて、カジュアルテイストが強い。
反対に私の時計は文字盤が小さくてレディライクなデザインに仕上がっている。
2つ並ぶとペアウォッチなんだという事がわかる、素敵なデザインだ。

欲しい……!

正直にそう思った。
私1人なら惹かれることはなかっただろう。
彼と一緒につけているからこそ、一層魅力的に見える気がする。
値段もそれほど高くなく、今日の持ち合わせで買える値段だ。

普段の私なら、迷わず買おう!と提案する。
けれど今日1日で大量の金額を使っていた彼を思うと、素直に欲しいと口には出来なかった。

「ありがとうございます。とても素敵ですけど、今日はやめておきます」
「やめるのか?」

彼は不思議そうにこちらを見ている。
予想外の発言に思わず目を見開いた。

「欲しいんだろ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「お前嘘下手だな」

焦ちゃんに言われたくないよ!
心の中でそう思ったが、反論しない事にした。

「これください」

彼の言葉に店員さんは軽快な返事で対応をする。
そしてあっという間に私の分の時計代まで手早く支払いを済ませてしまった。

「ありがとうございましたー!!」

店を後にした互いの左手首には、先ほどのペアウォッチが光っている。
それはまるで私たちが恋人同士であるという事を主張しているようだ。

「焦ちゃんありがとう。あとでお金払うね!」
「要らねえよ」
「え?どうして?」
「言わせんなよ」

ぶっきらぼうに言い、彼は私から視線を外した。
繋いだ手を引きながらショッピングモールを進んでいく。
私の手を引く彼の左手首には、先ほどの時計が目に入る。

これは現実なんだろうか。
こんな嬉しい事ばかり続いて、バチが当たるんじゃないかな。
幸せすぎて。なんだか。

「彩海?」

涙が出ちゃうよ。

「ご、ごめんなさ……」

最近色んなことで泣いていたせいだろうか。
止めようと思っているのに、次々に涙が溢れてくる。
当然、周りの人たちの視線が痛いほど集まっていた。

「……あれに乗るぞ!」

木椰区のショッピングモールには小さな遊園地が併設されている。
ちょうど広場まで出ていた私たちはその遊園地の入り口付近に立っていた。
彼は急いで近くに合った観覧車に向かって私を連れていく。

「いってらっしゃーい!」

係員の人が軽快に私たちを見送る声が聞こえる。
観覧車が動き出すと彼は安心したように1つ長いため息をついた。

「彩海。どうした」
「ごめん。だってなんか……嬉しくて……」
「嬉し泣きかよ」
「ご、ごめんなさ……」

向かい合わせに座っていた彼は私の隣に移動した。
反動で観覧車は揺れ動き、咄嗟に彼に両手でしがみつく。

「泣くなよ」

唇が重なる。
1度、2度。
少しずつ角度を変えて触れ合うその感触に思わず目を閉じる。
頬に伝う涙を、彼がそっと指で拭ってくれた。

「けど、そっちの方がいいな」
「え?」
「嬉し泣きの方が、断然いい」

私の頬を優しく包み込んでいる彼の手。
たくましい腕にそっと手を這わせる。

「焦ちゃん。大好き」

私の言葉に、彼は穏やかに笑う。
その笑顔につられて、私も笑う。

「俺もだ」

ゆっくりと頂上にたどり着いた観覧車の中で、私たちはもう1度唇を重ねた。


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