寮の説明も終わり、各自部屋作りに取り組む中。
クラスの女子メンバーは共同スペースで一休みをしていた。
「彩海本当大変だったね」
「本当無事で良かった!」
神野事件の後、みんなから私を心配するたくさんの連絡をもらった。
久しぶりに会って談笑している、この時間さえも貴重な事のように感じる。
事件の被害に合い、当たり前の日常がどれだけ大切なものだったかを嫌というほど痛感した。
「みんな心配かけてごめんね。ありがとう」
「当たり前じゃん。みんな友達なんだから」
当たり前なんかじゃない。
こんなにも私を思ってくれる人たちがいる。
それはとても恵まれてる、幸せな事なんだって気が付いた。
そしてこの日常を守り支えていくのはヒーロー。
身をもって体験したからこそ、もっと強くなって理想に近づきたいと思うようになった。
「ところで彩海、轟君とはどうなの?」
「どうって?」
「だから、どこまでいったの?」
クラスメイトの言葉に思わず大きく噴き出した。
どこまでいったか。
それはきっと、男女の仲としての進行を聞いている言葉だ。
「前よりもめっちゃラブラブじゃん!進展あったんでしょ?」
「し、進展?」
「キスはした?もしかしてもう最後までした?」
「さいご!?!?」
最後。その言葉に一気に顔が熱くなった。
彼とは幼い頃からたくさんの時間を過ごしてきた。
互いに男女として意識し、互いの気持ちを伝えた。
思いを確かめるように、思いを深めるように。
手を繋ぎ、抱き合って、キスをして。
私からしたら今までの出来事はすべて夢の様な、信じられない事で。
最近少しずつそれを整理して受け止めている最中だというのに。
最後までなんて、考えたこともなかった。
思考が追いつかず、助けを求める様に隣の親友へと目配せをする。
「あんたたちの事でしょ。なんで私の方見てんのよ」
「そりゃそうなんだけど……!」
「むしろ私も知りたいな。教えてよ、彩海」
「七絵……!!」
全部話を聞いて知ってるくせに!
親友のわざとらしい態度を軽く横目で睨み付けた。
「この反応じゃ、最後はまだっぽいね」
「キスまでって感じかなー」
「2人って幼馴染なんでしょ?付き合い長いんじゃないの?」
「轟君って意外と奥手なんだ!」
「普通、押し倒してもおかしくないよねー」
返答を濁す私にしびれを切らしたのか、好き勝手に話し始めるクラスメイト。
本当のことを教えたわけでもないのに、気が付けば当の本人なんてそっちのけで盛り上がっている。
「まあでも、チャンスじゃん?」
1人のクラスメイトが悪い事でも企むかのような笑顔で言った。
「寮に入って親の目もない今、ヤるチャンスなんていくらでもあるでしょ」
「はあ!?!?!?」
思わず感情が高ぶり声が大きくなる。
クラスメイト達は驚き目を丸くした。
その表情からは少しの恐怖の色も垣間見れる。
「彩海。出てるよ」
七絵の冷静な声に思わず我に返った。
気が付けば背後には小さな水龍が出来上がっている。
感情をコントロールできなくなると無意識に個性を使ってしまう、私の悪い癖だ。
「ご、ごめんみんな……」
「相変わらず彩海の個性にはびびるわあ」
「やっぱり一番龍が迫力あるよねえ」
「前はイルカとか出てて可愛かったよね」
「よし。じゃあ作業再開しよっか」
1人の声をきっかけに各々の部屋へと向かい始める。
私もそれに続こうと席を立った途端、七絵が小さい声でぽつりと呟いた。
「まあ、確かにチャンスではあるわよね」
「え?」
「ディープキス止まりのあんたたちが、先に進むチャンス」
「ちょ、七絵!!」
思わず辺りを見回す。
私たち以外の人影は見当たらなかった事に安堵しつつ、親友を再び睨み付けた。
「みんなが聞いてたらどうしてくれるの!」
「いや、もう手遅れでしょ」
「え?」
「こっちの話。早く行くよ」
七絵に促され、部屋に続くエレベーターへと進んでいく。
親友の不可解な言動や行動に疑問を持ちつつも、変に追求しない事にした。
女子の恋バナ好きのエネルギーを直に受け、少し疲弊してしまったからだ。
「なんか聞いちゃいけないことを聞いた気がするな」
「……はは」
余談だけど、この時稲妻君を含む数名の男子生徒が陰から聞き耳を立てていたという事は、大分後になって知った話だ。
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