最近、自分が変だ。
「やってるみたいだね、1年生」
偶然差し掛かった体育館γ。
賑やかな騒音が響いてて、どこかのクラスが個性の鍛錬を行っているという事が遠くからでもわかった。
七絵は長いため息をついて、私の方を見る。
「嫌になっちゃうよね。私らは2年生でやっと仮免試験を受けるってのに、今年の1年生も同じ時期に受験だなんてさ」
期待のされ方が違うわ。
そう、不満そうに零した。
「しょうがないよ。最近の敵の動向は活性化してるし」
「そうだけどさ。……まあ、1クラス除籍にされた時点で、私たちの学年なんか対して興味もないわよね」
「そんなこと……」
ないよ、と言いたかったけど、私は言葉を濁した。
内心、心の底でそう思っている自分がいたからだ。
親友の言葉にただ、苦笑する事しか出来ない。
「ちょっと覗いてみようよ」
「え?ちょっと、七絵?」
「不満ばっか言ってもしょうがないし、どのぐらいの実力があるのかをしっかりと見ておきたい」
七絵のこういう、現実的で前向きな姿勢が好きだ。
自分の実力を伸ばす事において決して妥協をしない。
そういうところを買われ、クラスメイトや教師たちからも信頼されている。
私も見習わなくちゃな。
そう思い、七絵の跡に続いて体育館γに足を進める。
近づにつれ、どんどん大きくなる轟音。
中を見れば、セメントスが作り上げたであろう様々な地形や物が目に入った。
傍らには相澤先生やエクスプラズム、ミッドナイトといった面々が揃っている。
「やあ、奏出少女。轟少年を見に来たのかい?」
「わっ!!オ、オールマイト!?」
突然背後から肩をたたかれ、間抜けな声を上げてしまった。
その様子が面白かったのか、オールマイトは陽気な声で笑っている。
神野事件で負傷したであろう右腕には、痛々しく包帯が巻かれ、保護するアームスリングが掛かっていた。
「ほら、轟少年はあそこだぞ」
指された方を見れば、彼がいた。
真剣な表情で取り組む彼は、こちらには気づいていない。
透き通るほど綺麗な氷、鮮やかで煌びやかな炎。
彼の体から織り成されるその2つはとても幻想的で思わず目を奪われてしまう。
「焦ちゃん……」
届かないとわかっているのに、無意識に彼の名を呼ぶ。
初めて彼の個性が出現した日。
私を救い出してくれた、暖かい炎。
おばさんの入院をきっかけに、磨き続けられた氷の力。
体育祭で再び放たれた、強く激しい炎。
彼の織り成すものは、すべて素敵に見えた。
自分にはない特別な力が羨ましくて、彼の個性はとても眩しいものに思えた。
そして個性だけではなく、彼自身の事も気が付けば好きになっていた。
いつしかその気持ちは好意から、恋に変わった。
私、変なの。
焦ちゃんの事を考えるほど、胸が苦しくなる。
今までは一緒にいるだけで満たされていたのに、それだけじゃ足りなくて。
彼の腕の中にいたい。触れ合っていたい。キスをしたい。……もっと深く愛し合いたい。
そんな恥ずかしい事を考えている。
「奏出少女は、本当に轟少年が好きでたまらないんだね」
突然の言葉は、まるで自分の考えていた事を見透かされているように思えて、一気に羞恥心がこみ上げてくる。
なんだか彼を見ていられなくて、視線を自分の足元に移した。
「守りたいものがある人ってのは格段に強くなるもんさ。轟少年の今後が楽しみだ!」
その言葉に思わず顔を上げると、親指を立てて爽やかな笑顔を向けたオールマイトがいた。
彼が幼い頃から憧れ続けた、No1ヒーロー。
そんな国民的ヒーローが、彼の成長を楽しみと言っている。
おじさんが聞いたらきっと怒りだしてしまうだろうけど、彼には聞かせてあげたかったな。
「オールマイト。怒らないで聞いてくれますか?」
「ん?なんだい?」
なんで今、こんな事を話そうと思ったんだろう。
自分でもよくわからない。
隣で七絵も怪訝そうな表情を浮かべている。
「あなたはすごい人です。けど、私が憧れる…目指すヒーローは轟焦凍です。小さい頃、私を助けてくれた焦凍は、誰よりも私にとってのヒーローだった」
自己満足だって事はわかってる。
けれど言わずにはいられない。
「そんなヒーローに抱いている、私のこの下心は……いつか彼の重荷になってしまうんじゃないでしょうか」
不安で押しつぶされそうな気持ちを、吐露せずにはいられなかった。
「君はとても真面目なんだね」
オールマイトは私の頭に手を置く。
幼子をあやすかのように、とても優しい手つきで。
「重荷になんてならないさ。きっと、その思いは轟少年を支え続ける糧となる。そんなに優しい気持ちを嫌がる人なんていないよ」
「そうでしょうか……」
「少なくとも、何も知らない私から見ても、轟少年は君を守ろうと必死になっているように見えたよ」
青春だね!!
この間の家庭訪問の時みたいに、オールマイトはそう言ってまた親指を立てた。
「私からもそう見えるよ。きっと大丈夫だよ、彩海」
「七絵……」
「イイね!熱き友情!奏出少女、画色少女!君たちの今後も楽しみだ!!」
ぽかん、と。
私達は思わず間抜けな表情を浮かべてオールマイトを見た。
オールマイトはその反応が不安なのか、少し焦ったように挙動不審な態度になっている。
「あははは!!す、すみません。なんか、嬉しくて」
2人同時に笑い出し、今度はオールマイトが間抜けにぽかん、と口を開けた。
七絵は1呼吸おいて、オールマイトを見据える。
「No1ヒーローからそう言ってもらえて、光栄です。これでこれからも頑張れそうです」
期待のされ方が違う、なんて嘆いてた時の気持ちはどっかに吹き飛んでいった。
そうだ。期待されてないわけがないのだ。
だって、私たちは雄英高校ヒーロー科2年生。
カリキュラムが違えど、厳しい訓練を耐え抜いてきているのだから。
「彩海、私たちも練習しに行こう」
「うん!でも私、その前にプレゼントマイクのところに相談しに行ってみる」
「わかった。オールマイト、ありがとうございました!!」
「ああ。頑張れよ」
体育館を去る私たちを、オールマイトは優しいまなざしで見送ってくれる。
脳裏には、真剣に鍛錬をする彼の綺麗な横顔が浮かぶ。
「私も、頑張らなくちゃ」
「よかった。やっと彩海らしくなってきた」
「え?私、変だった?」
「うん。ここ最近、もぬけの殻だった。でも、もう大丈夫ね」
七絵は笑う。
その笑顔はみんなの前ではめったに見せない、いたずらっ子みたいな笑顔だ。
「仮免、絶対取ろう!」
「うん!!」
2人で手を合わせ、甲高い音を響かせてハイタッチする。
その音は、私の迷いをさらに払拭してくれるような、激励の鐘の音のように、綺麗な音だった。
words of cheer
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