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「なんなのよ……そうやって全部自分で抱え込んで……六花さんのそういうところ、苛々する!」
「美琴ちゃんには関係ないじゃない!」
「関係なくない!」

青の電撃がまっすぐと伸びてくる。
咄嗟に身をかわして、美琴ちゃんから距離を取った。

「六花さん、実験の内容をすべて話してください。それを聞くまでは、あなたをここから返すわけにはいかないんです!」
「だから、それは偽善でしょ!同じような境遇の私を助けたいって言う、ただのあなたの自己満足じゃない!」

美琴ちゃんは電撃で足元の氷を砕こうと試みている。
けれど私の氷結は依然としてその場所にあった。

「無駄よ。空気中の純粋な水分だけを氷結した。いわば不純物が何も入っていない純水の氷。純水は電気抵抗が高く、あなたの電流は通らないわ」
「ならっ……!」

近くに置いてある機器に電流を走る。
爆発とともに、一気に火の煙があがった。
私はため息をつくと、機器を瞬時に凍らせる。

「熱も効かないわ。私が一度結合させたものは環境の影響を受けない。物理的に砕いたりすることも不可能。だから"絶対"氷結って名前がつけられたのよ」

氷の中で勢いよく燃える炎は、まるでランプのように明るくこの場を照らしていた。
美琴ちゃんは目を見開いて、声を震わせている。

「なんで……」

助けて。
ただ一言つぶやけば、この子は私の手を取ってくれるだろう。
一緒に私の闇へと、立ち向かってくれるだろう。
けれど、それじゃだめなんだ。

「……美琴ちゃんはこっちに来ちゃだめだよ」

学園都市の闇なんかじゃなくて。
太陽が当たる、暖かい日向でキラキラと輝く。
穢れも知らない、みんなの憧れのヒーローのような。
そんな存在であってほしいと、私は願うから。

「……ありがとう」

ゆっくりと美琴ちゃんの全身を固めていく。
氷の中の美琴ちゃんは悲しそうな表情をしていた。


少し離れたところまで移動し、能力の使用を解除する。
美琴ちゃんが壊死しないように、空気中の温度を奪って氷が溶けるようにして。
機械の方は炎を沈下するように、炎から氷が溶けるように操る。
慎重に、美琴ちゃんが無傷なままで終われるように。


「美琴ちゃんが電気使いでよかった」


本来、Lv5に対してこんな戦い方は通じない。
今回はたまたま、彼女が電気使いであり、私が電気に対しての対策を得ていた。
それに動揺している彼女のスキをついて勝てた、おこぼれのような結果だ。


私は乱れた制服を整えると、まっすぐマンションに向かって歩き始めた。