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帝督が最後に出て行ってから、幾日もたっている。
何日も家を空けるのはよくあることのはずなのに、尋常じゃない焦燥感が私を襲ってくる。

「探しにいかなくちゃ……」

不思議な感覚だった。
まるで何かに誘われるように、私は街に繰り出した。
尋常じゃない胸騒ぎ。
冷や汗が額を伝う。
虫の知らせ、という言葉があるが、こういうことを指すのではないだろうか。
私は最悪な結末を描いては消し、また描いては消した。
首元の赤い跡は消えないまま、くっきりと残っている。

「帝督、いったいあなたはどこにいるの……」

その瞬間、絶叫とともに逃げ惑う人たちの大群が押し寄せる。
その光景に、私の胸騒ぎが加速した。
耳鳴りまで聞こえ始める。
心臓の音がどんどん速まる。

「違うよね、帝督……。ねえ、違うって言ってよ……」

私は逃げ惑う人たちをかき分けて、流れに逆らって歩き出す。
その間も胸騒ぎはやまない。
頭の中では、最後に笑った帝督の笑顔が浮かんでいる。

「飾ちゃん!?」
「蒼南さん……ですか……?」

大通りへ出ると、そこには見慣れた花飾りの少女が倒れていた。
力なく笑う飾ちゃんを抱き上げると、右腕が振り子のように垂れ下がった。
どうやら右肩の関節が外れている。
とても痛々しい姿に、心が痛む。

「どうしたの!?なにがあったの!?」

氷で飾ちゃんの右肩を固めると、飾ちゃんは力なく笑った。

「ありがとうございます……。冷たくて、気持ちいいです……」

私は彼女の手を握ると周りを見回した。
誰でもいい。今は飾ちゃんを病院に連れて行かないと。


「……え?」

一瞬、見間違いかと思った。
長い爪のような武器を付けた人物が戦っている。
この能力、見慣れた風貌。

帝督だ。
帝督が誰かと戦っている。

「垣根……」

飾ちゃんが振り絞るような声で言った。

「垣根……帝督……と、男は言ってました。私の肩を踏み外したのは、あの、チンピラみたいな人です……」

信じられない。
信じたくない。
帝督がそんなことをするなんて。
違う。帝督はそんなことしない。
だって帝督は優しいもの。
帝督は……。

「ごめんね……飾ちゃん。本当に、ごめんね……」

気づけば私の目からは涙があふれていた。
自然と彼女を握る力が強くなる。

「ああ、そっか……。どこかであの人、見たことがあるって、思ったんです……。蒼南さんのアルバムで見た、あの、噂の幼馴染さん、で…すね……」

そうつぶやいて彼女は気を失った。

わたしはただ、飾ちゃんを抱きしめながら2人の戦う様子を見ていることしかできなかった。


『第一位になる方法』


今にして思えば、簡単だ。
きっと、彼がしようとしていることは、こういうことなんだろう。


「第一位の一方通行を、殺そうとしてるんだ……」


目の前の交戦相手の少年は、第二位である未元物質、垣根帝督と互角に渡り合っていた。