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「覚えてたジャンよ。君が垣根帝督をかばって飛び出した子だって。だからここに連れてきたジャン」
二杯目のココアをいただくと、そっと目を伏せた。
垣根帝督。
愛しいその名前を聞くと胸がひどく痛んだ。
「ねえねえ、この2杯目のココアもらっていいの?ってミサカはミサカは可愛らしく尋ねてみる!」
「かわいいあなたにはこの方が似合うと思うんだけど、どうかしら」
私は小さなティアラを作って少女の頭にそっとのせた。
「うわあ、すごいすごい!ってミサカは感嘆の声を上げてみる!」
「うるせえ!おい芳川!こいつをどうにかしろ!」
「はいはい、打ち止め、今だけこっちにいましょうか」
「ええー!?もっとお姉さんと遊びたいって、ミサカはミサカは……」
「うるせえぞ!」
そのやり取りを見ていて思った。
たぶん、帝督が壊そうとしたのは、一方通行の大切なものだったのだろう。
こうやって彼を見ていると、とてもあの時に見た無慈悲な悪党には思えなかったから。
「君は、垣根君とはどういった関係だったの?」
黄泉川先生は優しく私に促すように問う。
「……幼馴染です。ずっと、昔からずっと一緒でした」
「お前、白ノ乙女(ホワイトメイデン)だろ」
「そう呼ぶ人もいます」
「まだいるのか」
「……ええ」
「もう一つ聞く。お前の特別授業はまだ続いているのか」
「……はい」
そこまで聞くと、一方通行は小さく舌打ちをした。
この人は知っている。確実に、わたしたちのことを。
そして、今の帝督のことを。
「一つ忠告してやる。お前がそのカリキュラムをこなしたところで、お前にとってのメリットなんざ高が知れてる。これ以上は受けんな。あと……あいつのことを追いかけるのは、もうやめろ」
「……なに、それ」
気づけば一方通行の両肩を掴んでいた。
詰め寄るように、せがむように一方通行の体を揺らす。
「ねえ、知ってるんでしょ?帝督は今どこにいるの?どうして私たちがこうならなくちゃいけなかったの?ねえ、どうして…どうして…!!」
堪えきれなかった感情が溢れだす。
私はその場に泣き崩れた。
一方通行は何も言わずに、私をただ見つめている。
「ねえお姉ちゃん!今、いきなりティアラが消えちゃったよってミサカはミサ……」
泣き崩れる私を、黄泉川先生は優しく抱きしめる。
『明日は、いよいよ一端覧祭です…』
テレビからは淡々としたアナウンサーの声が響いていた。