03
『夕飯いらない』

そう同居人から送られた文章を思い出しながら、帰路につく。
特待生である私には週に3度、放課後に特別カリキュラムとしての能力開発が設けられている。
今日も淡々とカリキュラムを終え、ゆったりとした歩調で夕食のメニューを考えていた。
確か今日はスーパーで卵が安かったはず、と今朝のチラシを思い返していると、いきなり行く手を阻止するように人が立ちはだかった。

「ねえ君、これからご飯一緒にいかない?」

大学生と思われる3人の男たちは、舐めるように私を見て、厭らしい微笑を浮かべている。

「その制服、清白和でしょ?」

1人の男が私の左手を力強く掴む。

「名前は?彼氏いるの?俺と付き合わない?」

思いのほか強く握られ反射的に顔を歪めると、もう1人の男は肩に手を回してきた。

「こんな遅くにふらついてるなんて、見た目によらず悪い子なんだね」
「どーも」

私の発言に男たちは意外そうに目を丸くする。
だが間もなくして3人は吹き出す様に笑い、人気のない路地へと連れていく。

「抵抗するかと思ったけど、案外素直じゃん」
「大丈夫、少し楽しいことするだけだから」

通行人は連れられていく私を見ながらも、見て見ぬふりをして通り過ぎた。
関わりたくない、それが彼らの本心だろう。
まあ仕方ないよね、それが普通だもの。
そう思いながらぼおっと通行人を眺めていると、1人の通行人と視線がぶつかった。
たいていの人は視線を逸らすものの、その男子高校生は視線を逸らすことなく私を見つめている。

珍しいな、ああいう人。

「おい。人の彼女に何してんだよ」

そう思った瞬間、後ろから声がした。

「え?」

そこには先ほどの男子高校生が立っていた。
3人の男達を睨み付け、1人の肩を掴んでいる。

「なんだよ、お前」
「だから、こいつの彼氏だよ」
「絶対違うだろ。彼女、え?って言ってんじゃねーか」

しまった、そう思った時にはもう遅い。
私は男子高生を見て思わず苦笑した。

「ねえ、これ君の知り合い?」
「あ……はい」
「絶対違うよね。何今の間」

昔から嘘をつくのが苦手な私。
突然のアドリブに対応できずますます苦笑した。
男子高生は困ったように笑うと、何かを吹っ切れたかのように大きく叫んだ。

「ああそうだよ!知り合いじゃねえよ!この子を助けようとかっこつけたんだよ!」

男子高生は私の右手を掴み、勢いよく体を引き寄せた。
いきなりの行動に拘束していた男たちの力は緩んでおり、すっぽりと私は男子高生の腕の中に収まった。

「逃げるぞ!」
「えっ、あ、あの…!」

突然、物凄い勢いで私の手を引いて走り出す。
あまりのスピードに追いつけずもたついていると、一瞬で私の体が浮いた。

「ちょ、ちょっと!!」
「しっかり捕まってろよ!」

見ず知らずの人に突然されたお姫様抱っこ。
私はされるがまま、振り落とされないように必死にしがみついた。