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「蒼南六花君には、白ノ乙女(ホワイトメイデン)という名を授けよう」

科学者たちはいった。
君にはその名前がぴったりであると。
穢れを知らない無知の君を表すのには最高の名前だと。
私は言った。

「私が無知って、どういうことですか」

科学者たちは言う。
君はまだ気づいていないのだ。
本当の君は、奥深くに眠っているのだと。

私はその名前がその日から嫌いになった。
私を知り尽くしているかのように言う、その物言いが気に入らなかったから。
私を知ってるのは誰でもない。
私、だけなのに。










目が覚めると、そこに帝督の姿はなかった。

「一方通行……帝督は、どこ?」
「消えたよ。ついさっき」

一方通行の代わりに、ロングヘアーの女性が答える。
その目つきは、私を憐れんでいるように見えた。

「あんたの好きな男は、最初から現実にはいなかった。そう考えた方が、正論かもね」
「……どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。垣根帝督はここにはいなかった。あんたがみていたのは幻想だったんだ」
「幻想……」

ズキズキと響く痛み。
以前病院で治療を受けて完治したはずの左足と脇腹から血がにじみ出ている。

「幻想なら、なぜ前と同じ位置に正確に傷を負わせることができるの?」

一方通行は私を見た。
その表情からは焦りの感情が見て取れる。

「前に一方通行から帝督をかばったときうけた傷……。まさに今、私が出血している場所だった。帝督はあの時確かに意識があったんだ。私に気づいてた。だから、こうして同じように再現できた。これは、あの人の……私への、メッセージじゃないの?」
「おい…オマエ……」
「もう嫌よ。こんなに絶望ばかりの世界。私たちはただ一緒に入れればそれで幸せだったのに、もうめちゃくちゃ…。学園都市の闇?人様の勝手な都合に、私たちは振り回されて……それで彼は殺された。あなたたちに」

制服のポケットから1つのケースを取り出した。
ひんやりとした感覚が手に広がる。

「あんた、それって……」
「おい!やめろ!」

2人の静止を突き放し、私は錠剤を口に含んでいく。


「もう、疲れたよ」


意識がどんどん遠のいていく。
深い、深い、まどろむ闇へと、私は落ちていった。